最近、女性に流行中の麻辣湯(マーラータン)。トングで食べたい野菜や練り物をボウルへ放り込んで……。一方、欧米ではお皿にチーズやクラッカーを適当に並べただけの「ガールディナー」が共感を集めています。一見、別のムーブメントに見えるが、麻辣湯は日本版ガールディナーなのでは?と思えてきます。
ガールディナー(Girl Dinner)というのは、主菜・副菜といった形式にこだわらず、自分が食べたいものだけを寄せ集めたミールプレートのことです。2023年頃から欧米の女性の間でTikTokを中心に流行しているみたいです。
冷蔵庫にある食べたいものを少しずつ、無造作に並べて食べるスタイル―――チーズ、生ハム、ピクルス、イチジク、ナッツ、オリーブといった欧米の女性(ガール)たちが好きなものを調理をせずにワンプレートに寄せ集めます。
「仕事に疲れた」「今日は料理をしたくない」「栄養バランスを考えるの面倒」「人に誇って見せられるような夕食じゃない」「でも、わたしは食べたいものを食べる」
「女性らしい」という理想・幻想に対するアンチテーゼの気持ちから生まれたワンプレートで、日本で言うところの「ズボラ飯」ってところでしょうか。それがガールディナーです。
このムーブメントの背景には、男女参画により「家事も仕事もこなさなくてはならない」「SNSで映えるような丁寧な暮らし、素敵な暮らしをしたい」「でもそれは難しい」といった女性の苦悩があるように思えます。
「ガールらしくない」自覚があることをあえて「ガールディナー」と呼んだことで多くの女性の心を掴んだのでしょう。ガールディナーというのは欧米のガールたちの解放の象徴なのだと感じています。
一方、日本のガールで最近流行しているのは麻辣湯(マーラータン)。若者の研究所の女子大生も弊社の女性スタッフもこぞって麻辣湯に通っています。
筆者のオフィスがある東京・赤坂にはチーパオ(七宝)やヨウゴフク(楊国福)など麻辣湯のお店が2~3店舗あり、それぞれのお店の味の違いなどの雑談も日々交わされています。
話を聞いているとメンタリティ的には麻辣湯ってガールディナーなのではないか?と思えてきます。
女性の一人メシ空間
私も麻辣湯によく行きますが、店内ではお一人様の女性が多く見えます。
女性が1人でラーメンをすすったり牛丼を食べるのは気が引ける。そうなると、女性が気を張らずに一人で食事をしようと思ったら、男性ほど選択肢がない。(若者の研究所)
麻辣湯は女性客が多いので、女性1人でも気軽に入りやすいわけです。もちろん男性客もいますが、そこはガール空間的です。
スマホを見ながらご飯を食べたり、周囲を気にせずにリラックスして自分の時間を過ごしている感じがします。ご飯を食べる場所なのは間違いなんですが、ある種のリラクゼーション空間のようです。男性で言うと、サウナの飲食ができる休憩所のような、そんな雰囲気です。
ちょっとヘルシーなジャンクフード
麻辣湯、男性の私からすると「ヘルシーなラーメン」ってところです。野菜と春雨で確かにラーメンよりはヘルシーかな、なんて思いますが、麻辣スープには結構な油が入っています。
そこは本当にヘルシーなのか薄々疑問に思いながら、気にしないことにしているのであまり突っ込まないでほしいみたい。(若者の研究所)
ストレス発散。男性でいうラーメン屋にちょっと似ている気がします。今日は行っちゃうか!となるのが麻辣湯。(若者の研究所)
「辛くて油が多めの背徳感あるスープにヘルシーなトッピングの免罪符」の組み合わせ。背徳感も丁寧な食生活もどちらも満たしたい、それが日本版ガールディナーです。
食べたいものを少しずつ。情報が溢れすぎて選べない時代に「選択する喜び」
これも非常にガールディナー的だなと思いました。お店でトングで自分の好きな食材で囲んで、自分の好きなワンプレート(ワンボウル)を完成させる。
この儀式的行為、麻辣湯がガールディナーとちょっと違うのは、この時代に「選択する喜び」です。
いま、SNSではありとあらゆるものが宣伝されていて、「どれもいい商品のように見える」「違いがわからない」「何を買うべきかわからない」という声が、最近消費者調査をする中で増えてきています。
そんな中で、目の前の冷蔵された野菜・練り物・お肉、「ある程度決められた選択肢」の中から自分の食べたいものを何個か選ぶ。後ろには別のお客さんが並んでいるので、ある程度瞬発力をもって選ぶ―――麻辣湯に行けば、気軽に「選択する喜び」を味わえるのです。
仕事の合間や仕事の終わりに。ガールディナーとして麻辣湯を見直すと、ビジネスにもヒントがありそうです。今回は麻辣湯を取り上げましたが、他にはスープストックやクリスプサラダワークスも日本版ガールディナーとして言えそうです。
欧米は「ズボラ飯」を「ガールディナー」と呼ぶことで自己効力感を上げようとしていますが、日本では「自己効力感が上がる飲食店」を「ガール」が選んでいる。そんな隠れたニーズが垣間見えます。
石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。