Z世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」

「よっ友」「ゆる友」「した友」とは? デジタルネイティブのウチ・ソト感覚

作成者: 石崎健人|Sep 17, 2025 6:56:13 AM

今回の密着対象者

Wさん(22)大学4年生
2002年生まれ。都内私立大学在学中の女子大生。バンドサークルに所属し、ギターボーカルを担当。カラオケも大好き。現在就活と並行してベンチャー企業でインターンし、バイタリティあふれる大学4年生。将来は広告系や企画職で働いてみたい。

「よっ友」:キャンパスの「知り合い以上友達未満」

 

今回は、Wさんの通う大学のキャンパスライフに密着した。同行中、Wさんが様々な人に会釈を交わしていることに気が付いた。これはいったい?

大学に入った頃の新入生歓迎会で隣だった同級生、ゼミの入所説明で話しかけてもらった先輩など、「知り合い以上友達未満」の人たちです。学生の間では「よっ友」と呼ばれています。「よっ」って挨拶するだけの友達だから「よっ友」です。

大学生は、大学のイベントでなどで一度だけ話したきりの関係、通称「よっ友」。キャンパスで会ったら挨拶だけする「知り合い以上友達未満な関係」のようだ。

アラサーの筆者が大学生の頃、2012年ごろにもこういった現象はあった。友人の佐藤さんと、その友人の中本さんと大学の食堂でランチをした後、中本さんと私は「よっ友」になった。

話したこともあるし、インスタグラムでも繋がっています。ただ、2人だけで授業を受けたりランチをしたり、遊びに行ったりするほどの仲でもない。キャンパスで会って止まって立ち話するほどでもないし、かといって無視するほどでもないし、気まずいし。結果として会釈だけする感じになっています。

そう言われて、キャンパス同行中よく見ていると、たしかに。色々なところで大学生が手を振ったり会釈をし合っている。

デジタル版「よっ友」、通称「ゆる友」 本アカ・サブアカ・裏アカを使い分け

「よっ友」「知り合い以上友達未満」の関係であっても、インスタグラムで繋がっている点は興味深い。どういうきっかけなのだろう。

きっと、大人の名刺交換みたいなものだと思います。はじめまして、で会った人たちともインスタグラムは交換します。「本アカ」を交換するだけで、お互いのストーリー投稿をなんとなく見たりしていますね。「よっ友」のデジタル版、「ゆる友」って感じですかね。

本垢(本アカ)とは、「本アカウント」のことだ。Wさんのインスタグラムを見せてもらうと、アカウントを複数作成していることが分かった。

本アカは、見ず知らずの人や顔も知りの友達と連絡先を交換する用でフォロワーは500人くらい。サブアカが「した友」(親しい友達)用で50人くらい。裏アカは本当に親しい友達用で5人だけで使っています。「ゆる友」は本アカでつながっている、リアルの「よっ友」たちにあたりますね。

なんとも器用に友達のアカウントを使い分けているあたりが若者らしい。

本アカのインスタのプロフィールにサブアカをメンションしておいて、サブアカにフォローリクエストしてきた人の中から気に入った人だけを許可します。もしくはリアルで仲良くなって対面の時に交換する感じですね。「よっ友」から「した友」になります。ちなみに、はじめましてでも、会ってすぐに意気投合したら、サブアカを交換しますね。

本アカ・サブアカどちらもで投稿するのだろうか。アカウントどのように使い分けているのだろう。

私はいま3つアカウントを持っていて、3アカウント全てで投稿しています。「ゆる友」など誰に見せてもOKな投稿は本アカ、「ゆる友」に見られたくない投稿はサブアカ、ちょっと愚痴っぽい病んだときは裏アカ、という感じで投稿場所を使い分けています。

そういって実際にサブアカでの投稿を見せてもらった。

「ゆる友」は変顔までさらけ出せるほどの関係じゃない

オーストラリア旅行のフライト中の「変顔」

=たばこを吸っていることは「ゆる友」にはあんまり知られたくない。

海外でのたばこの価格の高さを嘆く

チリクラブのレストランで見つけたコンドームのパック状の袋に入った手袋

=面白いからみんなにシェアしたいけど、ちょっと下品なので「ゆる友」には見せずに、身内だけにとどめたい。

なるほど。たしかに関係性の薄い友達、「ゆる友」には見せたくないかもしれない。そうなると、若者がアカウントを使い分ける深層心理が気になってくる。

アカウントの使い分けに見る若者のウチ・ソト感覚

本アカは、キャンパス内での「広い自分の印象づくり」のためだったり、きれいな写真を思い出としてとっておく用。基本的には当たり障りのない写真しか載せません。
 
サブアカは友達とのコミュニケーションだったり、「等身大の自分を残しておくアルバム」のような役割のイメージです。
 
高校のときはインスタグラムはアカウント2個だけだったけど、大学に入ったら交流関係が良くも悪くも広く浅く広がったので、使い分けていくうちに3個持ちにたどり着きました。

大学に入り友達や参加するコミュニティが増えた結果、Z世代の大学生にとって、インスタグラムの本アカとは「デジタル上の公共空間」なのだ。「よっ友」「ゆる友」には、当然見せたくない写真もある。そのため若者たちは、等身大の写真を、好きなだけ、仲のいい友達にだけ見せるための「サブアカ」を持つ。

本アカがオシャレさ重視なのに対し、サブアカは、何も気にせず自分が載せたいものを載せる人が多いのだそう。仲のいい友達にしか見せられないような酔っぱらった姿や、下品だけど笑えること、悲しかったことの共有など、サブアカは、友達とのコミュニケーションに使う。デジタルネイティブの彼女にとって、本アカ=公共空間であり、サブアカ=私生活空間なのである。

交友関係やコミュニティが増えているからこそ、アカウントを分けて自分のアイデンティティを複数に分け、分立する。この公共空間の配慮意識や人格の分立の器用さが、アラサーの筆者の感性からすると大きく異なり、今風に感じるのである。