Z世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」

AI専攻の大学生が進路に迷う理由。この先危ないと思う職種とは?

作成者: 石崎健人|Sep 17, 2025 7:06:42 AM

密着型のエスノグラフィー調査から見えてきたZ世代の誤解。Z世代に対する一般論と実態のギャップ。若者の研究所にて、学生研究員が大人と対話をしながら自らの世代を分析する中で生まれた連載企画です。―――「えっ?そうなの?」大人が知らない「ビーリアルな」Z世代理解に迫ります。

今回はデジタルネイティブの中でもAIについて学ぶ現役大学生に就職活動について話を聞いてみた。AI時代で失業する人が増える、と巷で言われているが、逆にAIネイティブの若者は働くことについてどのように考えているのか。そこから企業のZ世代採用のヒントを得てみたい。

今回の密着対象者

Oさん(21)大学4年生(男性)
2002年生まれ。東京都出身。中学受験で私立中高一貫校に入学し、大学ではAI関連を専攻する。大学2年生の頃、カナダに交換留学で滞在。大学3年生からインターンシップ参加等の就職活動を開始。現在は就職活動を一次休止中。

YouTubeで独学でAI学習にのめり込んだ中高時代

スマートフォンを初めて持ったのは12歳のとき。中学受験の合格祝いだったそう。

アラサーの筆者からすると、“AI専攻の学生”がいること自体がすでに目新しい。何がきっかけでAIに関心を持つに至ったのだろうか?

父がIT企業でフロント開発をしていた影響で、AIについて調べたのがきっかけだと思います。YouTubeでAIやプログラミングに関する解説動画を視聴していました

父親の職業が最初のきっかけだったようだ。

入学した中高一貫校は本当に自由で、他人の目線を気にすることなく自分の道を大事にできる環境でした。僕の学校はアクティブ・ラーニング(※)型の教育方針で、それもあってYouTubeで探求していたAI関連に自然にのめり込むようになって。AIは必ず発展していく分野だと確信があって、AIを学ぼうと志望するに至りました。

※)アクティブ・ラーニング (Active Learning)とは、受講者が能動的に学習に参加する教育手法。従来の座学中心の授業とは異なり、ディスカッション、グループワーク、ディベートなどの体験学習を取り入れ、受講者の自主性を尊重し、協働学習や問題解決能力の育成を目的とする。(引用:Gemini)

インターンを通じて見えてきた就職のこだわりは

AI専攻ということで就職活動も軸が定まっていそうだが、就職活動では悩みなどあるのだろうか。

当所はIT企業などを見ていて、長期インターンシップなどにも参加したのですが、就職の選択肢が多すぎてしまい、今は正直身動きが取れなくなっています

就職活動でどのようなことを感じたのだろうか。

インターンシップに参加してきて、僕自身がモチベーションを持って何かに打ちこむための必須要素がわかってきました。

「これをやりたい!」と手を挙げて、「どういうことなの?」と問いかけて欲しいんです。否定するのでもなく、勝手にやらせるでもなく、問いかけて欲しいんですよね。

そう思ったときに、大手はなんでも出来ると思ってたけれど、縦割りな感じがして個人のやりたいことへの活路はないかも、と思うようなりました。

組織が縦割りだと、やりたいことができない、と感じるようだ

就職活動を通じて起業に興味を持ったのだという。

今は就職せずにスモールビジネスで起業するか、大学院進学をしてまた就活をするか、模索中です。

プログラミング教室や、就活へのAI活用など、試してみたいアイデアがありまして。

インターンシップを通じて、僕は誰かの「やりたい!」を代理して形にするよりも、自分が「やりたい!」と思って、自分で提案や判断をして実行したいんだ、と気がつきました。

歯車的な仕事は楽にお金も稼げるしモテるだろうなとも思いましたが、ただ、そこで楽に稼ぎたいという気持ちは1ミリも浮かびませんでした。

発言からはOさんの高い労働意欲が垣間見える。

若者が「未来がない」判定した企業、職種とは?

「AIによって生まれる仕事・奪われる仕事」と銘打った記事を誰もが目にしている今、Z世代の就活生Oさんが“入社ナシ”判定する企業とはいったい。

インターンシップや選考を通じての個人的な感想ではありますが、会社によってカラーは違うなと感じました。

例えば、某大手IT企業は、技術面に安心感が持てる一方で、縦割り感が強く、自身の求める、問いかけがあるようなコミュニケーションを期待できないと思いました。

一方、中小のIT企業は、大企業より問いかけのあるコミュニケーションを期待していましたが、そうではありませんでした。クライアントからの指示を受ける指示待ち、下請け感を感じてしまいました。将来的には開発担当が1人いればあとはAIに任せられる世の中になるだろう、と思うので、今後は多くの社員が仕事にあぶれそうだと思ってしまいました。

そういう経験を経て、就職活動で起業に幻滅してしまった、というのが正直なところです。

職種については、思うことはあるのだろうか。

銀行はなくならないけど窓口業務がなくなっていく様に、エンジニアなども、“このコンピューター言語の使用経験のある人”といった求人は危ないな、と思って見ています。

今後も残る仕事となくなる仕事の違いは、AIを活用しつつ、最終判断を人間が下すべき職能があるかどうか、だと思います。

そのようなAIネイティブのOさんから見て、働くことや未来は悲観的に捉えているのか。それとも希望を感じているのだろうか。

なくなる仕事がある一方で、新たな仕事に取り組めて仕事自体の幅は広がると信じているので、自分が苦しんだりするようなイメージや不安は持っていないです。

まとめ

芯が明確なOさんの就職活動の悩みは自己分析ではなく、「自分を活かせる環境を見つけられていないこと」だと言う。アクティブ・ラーニング型の教育で学んだOさんには、主体的に自分の個性を活かせないキャリアは“不自然な選択”なのだろう。そんなOさんが起業に関心を示すのは必然性を感じさせた。AIに仕事を奪われる、といった巷のAIの恐怖言説とは裏腹に、AI時代と労働に対するポジティブな世界観とその探求心が印象的であった。AI時代の明るさの一面を知った一日になった。