性格診断テスト「MBTI」がZ世代で流行している深層心理を、ENTP(討論者)の2人で白熱議論した日の話です。
今回の密着対象者
Tさん(21)大学4年生(男性)
2003年生まれ。東京都出身。来年から大学院に進学予定。最近ハマっていることは、Google Earthのストリートビューで海外の街並みを見ること。世界旅行気分を味わうことができるんだとか。MBTIはENTP(討論者)。
MBTIは4つの観点で2つの対になる気質を16パターンで分類してくれる性格診断ツール。TさんのMBTIは討論者(ENTP-T)。悪魔の代弁者と呼ばれる珍しいタイプだ。
筆者もMBTIがENTP(討論者)なので、その晩はENTP同士で話が盛り上がった。アラサーと若者のENTP同士の討論会だ。
Tさんは日本人の中ではちょっと主張が強いタイプ?
コロナ禍くらいからずっと流行っていますよね。いまはMBTIを目にしない日はないくらい定着した感があります。
インスタでも「ENTPの恋愛観」「ENTPあるある」「ENTPとENTJの違いとは?」みたいなポストがおすすめで出てくる。初対面の人とはお互いのMBTIについて話すことが多いですよね。話題にしやすいですし。それくらい僕らの世代では一般的なものだと思います。
僕の周りでは、就活でもMBTIを使っていますね。私は大学院に進学するのですが、友達は「私はENFJ(主人公)だから営業職に意外と向いているのかもな~」みたいな感じでよく話しています。
私も自己分析や能力開発でMBTIを見ることは確かにある。もしかして、MBTIが就活やキャリアに影響したりしてる部分ってない?
そう言われると確かに。僕の進路もMBTIにめっちゃ影響を受けていますね。
僕はMBTIがENTP(討論者)といって、議論・分析好きなのですが飽き性なタイプ。場当たり的、自由人、みたいな感じで組織で調和することが苦手なんです。有名人で言うとひろゆきとか、落合陽一みたいな感じです。
だから、「ルールとしてこれは必要だからやりなさい」「なぜかはわからないけど、○○先生がそう言ってたからダメ」みたいな、理屈なく強制されることに抵抗感が強くて。中学校・高校のときは苦労しました。
ENTPは、制約嫌いで探索を好むらしくて。だから自分の好きなことを自由に研究できそうな大学院は自分に合っているかも、と感じてましたね。
「ENTPだから大学院進学」、とまで直接的には考えていなかったですが、MBTIが進路に影響していた感覚は強くあります。
ENTPのキャリア上の強み・弱み。確かにサラリーマンより、研究職が向いていそうな。
直接的ではないものの、MBTIは、適職診断的な要素もあるようだ。実際に、MBTI診断ツールではキャリア上の強み・弱みや適正のある職業について言及があることが多い。
MBTIが流行っているのは筆者が運営に関与している「若者の研究所」の学生と交流しているので肌で感じている。今回は、このMBTIがなぜZ世代に刺さっているのか、が気になるところだ。
あと、MBTIが流行っているのは、「相手との対立を避けたい」っていう深層心理がみんなの中にあるんじゃないですかね。
MBTIではタイプごとにあなたの性格・特徴を教えてくれる
ゼミの同級生のSさんの話なんですけど。
グループ課題の締め切りを守らない後輩をSさん説教したと。そうしたら、その後輩がゼミ外の友人やサークルの友人にSさんの悪口を言い始めて。インスタのDMとかLINEで「私は悪くない、Sさんに攻撃された!!」みたいな感じ。でも、その後輩が悪かったことは自明だったので、徐々にSさんの味方が増えて「後輩の子に問題がありそうだ」という雰囲気になっていきました。結局、その後輩はサークルもゼミも居場所がなくなって辞めちゃいました。
これを聞いて思ったことがあって。
今って、ゼミみたいなオフラインの場もSNSと繋っているじゃないですか。
だからオフラインの場所で居心地が悪くなると、オンラインの居心地が悪くなるんですよ。たとえば、LINEとか開くのも嫌になっちゃうんですよ。
僕も肌身離さずスマホを持っているわけですけど、そのスマホの持ち心地が、すごい悪くなるんだろうな、と思いました。
たとえ話でいうと、彼女と別れたら、彼女とのLINEとか、インスタの彼女のアカウントとか、目にしたくない。すると、自分のスマホ自体がすごいイヤな存在になる。
もう1個思ったことは、自分とその人の関係性が複数のコミュニティにまたがっているんですよ。だから、誰かと対立を起こすと、自分の他の交流関係にも影響が出るんです。
サークルとゼミが同じ友達がいたとして、その子と険悪になったら、サークルもゼミも行きづらくなるじゃないですか。
インスタのハッシュタグみたいなもので。僕の友達のAさんは#サークル友達 #バイト友達#授業友達#ゼミ友達みたいに4つのコミュニティでつながりがあるんです。
このAさんと対立すると、4つのコミュニティで僕は居場所を失うわけです。
そう考えると、MBTIって便利なツールなのかなって。色々なコミュニティでうまくやっていくためには、ひとりひとりの相手と自分の相性の良さも悪さも知っておきたい。
相性が悪いということがMBTIで事前にわかっていれば、相手のことも理解しやすいし、どこに気を遣って接すればいいかもわかりやすい。
Z世代はよく「協調性が高い」といわれるが、その構造が理解できたかもしれない。「協調性が高い」というよりは「対立を避けたい」という自己防衛反応のような心理が感じられる。リアルとオンラインが24時間常時接続され、コミュニティがニューロン的に複雑に絡まっている中では、対立を避けることが必須である。彼らが恐れているのは、問題を起こすと複数のコミュニティに影響が起き、すべてが居心地が悪い空間になってしまうことなのだ。そういう意味で、MBTIは、相手と「うまくやる」ために便利なツールなのだろう。
どうやら日本だけでなく世界中のZ世代も共通して「協調性が高い」傾向があるようだ。世界の若者が日本的・村社会的な島国気質になりはじめているというのは、興味深い。
【注意書き】
記事中で取り上げている「MBTI」とは、若者の間で親しまれている性格診断ツール(16 Personalities)を主に指しています。上記ツールは、専門的な心理検査である従来のMBTI(Myers-Briggs Type Indicator)とは異なるものです。
正式なMBTIは、認定資格を持つ指導員のもとで実施されるものであり、両者を混同しないようご注意ください。詳細については、一般社団法人 日本MBTI協会のWebサイトをご参照ください。