リビングのテレビは消えたまま、ソファの子どもはタブレットの中のヒカキンさんに夢中です。将来の夢を聞けば、迷いなくユーチューバーと答える。その一言に胸がざわついた親は少なくないはずです。子どものなりたい職業ランキングを10年分さかのぼると、この憧れの正体が見えてきます。
二大調査の最新結果|第一生命と学研で頂点が違う
子どものなりたい職業を長年追いかけてきた定番調査が二つあります。第一生命保険が1989年から全国約3,000人の小中高生に尋ねてきた大人になったらなりたいもの調査と、学研教育総合研究所の小学生白書です。直近の結果を並べると、面白いことに頂点が一致しません。
| 調査名 | 実施元 | 直近の結果 |
|---|---|---|
| 第37回 大人になったらなりたいもの | 第一生命保険 | 小学生男子は会社員が6年連続1位。野球選手がユーチューバーを逆転して2位。女子はパティシエが1位 |
| 小学生白書 2025年調査 | 学研教育総合研究所 | YouTuberを含むネット配信者が全体1位。パティシエ、警察官が続く |
同じ小学生に聞いているのに、片方は会社員、片方はネット配信者。質問の言い回しや回答の形式が違うだけで、頂点はここまで入れ替わります。ランキングは一つの真実ではなく、聞き方の数だけある。まずここを押さえるのが出発点です。
ユーチューバー人気の10年史|初登場から3年で男子の頂点へ
学研の小学生白書にYouTuberが初めて現れたのは2016年、自由回答欄への書き込みとしてでした。そこから3年連続で順位を上げ、2019年にはついに男子ランキングで初の1位に立ちます。2010年ごろから男子の頂点を守り続けてきたプロサッカー選手を、画面の中の大人が追い抜いた瞬間でした。同じ年の全体ランキングでもパティシエに次ぐ2位につけており、勢いは男子だけのものではありませんでした。
2025年の調査では、呼び名をネット配信者に広げたうえで全体1位に。一方の第一生命の調査では、2026年3月発表の第37回で野球選手がユーチューバーを逆転しました。背景として第一生命は、大谷翔平選手をはじめ海外で活躍する選手への憧れを挙げています。
なぜ憧れるのか|α世代の視界に入る大人が変わった
いまの小学生の主役は、2010年代に生まれたα世代です。物心ついたときからリビングの中心はテレビではなく動画で、子守も暇つぶしも学びの入り口もYouTubeでした。YouTube視聴の実態を見ると、画面の中のユーチューバーが毎日いちばん長く顔を見る大人になっている家庭は、もう珍しくありません。
子どもは、見たことのない職業になりたいとは言えません。ケーキ屋さんや警察官が何十年も上位に居座るのは、生活圏で働く姿が見えるからです。ユーチューバーはそこへ画面越しに割り込んだ、初めての職業でした。しかも身体の才能を要求せず、好きな遊びの延長に見える。憧れない理由を探すほうが難しいのです。
なりたい職業ランキングは、子どもの労働観の調査ではなく、子どもの視界に入った大人の調査です。ユーチューバーの1位は職業観の異変ではなく、視界の主役がテレビから個人の画面へ移ったという報告にすぎません。研究所ではそう読んでいます。
会社員が6年連続1位の読み方|家が職場になった日
第一生命の調査で小学生男子の1位が会社員だと知ると、今の子は夢がないという嘆きが必ず聞こえてきます。ただ、会社員の1位はコロナ禍のさなかに行われた調査から始まり、そのまま6年続いているものです。在宅勤務が広がり、リビングで会議をする親の姿が初めて子どもの視界に入った時期と、きれいに重なります。しかも会社員は小学生男子だけでなく、中学生と高校生でも1位。年齢が上がり親の仕事への解像度が増すほど、この答えは強まります。
いま小学生を育てる親の中心はミレニアル世代で、働く姿を家庭から隠さない初めての親たちでもあります。子どもの答えは夢の縮小ではなく、いちばん近くで毎日見た働く大人が親だったという、素直な報告なのかもしれません。
親はどう受け止めるか|憧れは視界とともに入れ替わる
野球選手の逆転は、ユーチューバー時代の終わりというより、同じ法則の再演です。画面の中でいちばん輝く大人が大谷選手に代われば、ランキングも動く。憧れの対象は、これからも子どもの視界とともに入れ替わり続けます。
だからユーチューバーになりたいという宣言に、身構える必要はありません。動画を企画して撮影し、編集して届ける遊びは、AIネイティブとして育つ世代にとって創作とテクノロジーの入り口になります。禁じるより、何がそんなに面白いのかを隣で聞いてみる。その会話にこそ、次の世代の消費と文化を読み解くヒントが詰まっています。
若者研究所では、現役の学生研究員によるグループインタビューや定点調査を通じて、Z世代とα世代の憧れや消費の変化を企業のマーケティングと商品開発につないでいます。若者リサーチのご依頼やお問い合わせはお気軽にどうぞ。
よくある質問
子どものなりたい職業ランキングで今の1位は何ですか?
調査によって異なります。第一生命保険の第37回調査では小学生男子の1位は会社員、女子の1位はパティシエでした。学研教育総合研究所の2025年調査では、YouTuberを含むネット配信者が全体の1位です。質問の仕方で順位が変わるため、複数の調査を見比べるのがおすすめです。
なぜ子どもはユーチューバーに憧れるのですか?
物心ついたときから動画が生活の中心にあり、ユーチューバーが毎日画面越しに見るいちばん身近な大人だからです。子どもは見たことのある職業に憧れるもので、好きな遊びの延長に見えることも人気につながっています。
子どもがユーチューバーになりたいと言ったら止めるべきですか?
頭ごなしに止める必要はありません。動画の企画や撮影、編集は創作とテクノロジーに触れる入り口になります。憧れの対象は成長とともに変わっていくものなので、何が面白いのかを聞きながら見守るのがよいでしょう。


