AIイラストはなぜ若者を引き裂くのか|創作するZ世代の反発と誘惑

絵を描く高校生や大学生と話していると、画像生成AIの話題になった瞬間に空気が変わります。怒っている子もいれば、こっそり使っている子もいる。そして少なくない子が、その両方の気持ちを同時に抱えています。AIイラストをめぐる若いクリエイターの感情は、賛成か反対かの二択では説明できません。反発と誘惑が同居する、この複雑な感情の構造をほどいていきます。

なぜAIイラストは若者にとって感情的な問題になったのか

2022年の秋、Stable DiffusionやNovelAIといった画像生成AIが立て続けに公開され、SNSにAI製のイラストがあふれました。同じ年、イラスト投稿サービスのmimicが公開直後に批判を受けて提供を一時停止する出来事もあり、絵を描く若者の警戒心は一気に高まりました。
火種の中心にあるのは、AIが大量のイラストを学習して作られているという事実です。自分の絵が、あるいはあこがれの絵師の作品が、同意のないまま学習に使われたかもしれない。この感覚が、新しい技術への単純な抵抗とは質の違う、深い感情のもつれを生みました。生まれたときからデジタル環境で育ったAIネイティブに近い世代であっても、いや近い世代だからこそ、創作の領域に踏み込まれたときの反応は鋭くなります。

反発の核心は法律ではなく感情

日本の著作権法では、情報解析を目的とした著作物の利用は原則として認められています。文化庁も2024年にAIと著作権についての考え方を整理した文書を公表しました。つまり学習の段階だけを取り出せば、直ちに違法とは言えない場面が多いのです。
それでも反発が収まらないのは、若いクリエイターが問題にしているものが合法性ではないからです。

  • 何年もかけて身につけた画風が、数秒で再現されてしまう悔しさ
  • 尊敬する絵師の作品が、本人の知らないところで使われることへの憤り
  • 描くという営みそのものが軽く扱われたという感覚

研究所で創作をしている研究員の話を聞いていると、これは権利の問題である前に、時間の問題なのだと感じます。絵がうまくなるまでの膨大な時間を知っている人ほど、その時間が省略される光景に痛みを覚えるのです。

使う派と使わない派|すれ違う言い分

創作する若者の中でも、AIとの距離の取り方は分かれています。両者の言い分を並べると、対立というよりすれ違いに近いことが見えてきます。

使う派 使わない派
AIのとらえ方 構図や配色を試すための道具 他人の作品の無断学習でできた仕組み
創作の価値 完成したものが良ければよい 描く過程と積み上げにこそ意味がある
不安なこと 使っていると公言すると叩かれる 手描きの仕事や評価が奪われる

使う派の若者も、無邪気に使っているわけではありません。SNSでAI利用を公言すれば批判が飛んでくることを知っているため、下書きや資料づくりに限定して静かに使う、いわば後ろめたさ込みの利用が目立ちます。便利さは認めつつ、堂々とは使えない。この宙づりの状態こそが、いまの若いクリエイターのリアルです。

AI絵師という言葉をめぐる論争

AIで画像を生成する人が絵師を名乗ることへの反発は、呼び方の問題以上の意味を持っています。手描きの絵師にとって、絵師という言葉は積み上げた鍛錬のあかしです。プロンプトの入力で同じ肩書きに並ばれることは、アイデンティティの領域を侵されることに近い。
一方で生成する側にも、構図の指定や修正を重ねる工夫があり、ボタンひとつではないという自負があります。ひとつの言葉を取り合う構図が、SNS上の論争を激しくしてきました。呼び方が定まらないこと自体が、社会がまだこの技術の位置づけを決めかねている証拠だといえます。

推し文化との衝突|AIファンアートは愛か手抜きか

ファンアートは推し活の中心的な表現のひとつです。推しを描くことは自分の時間をささげる行為であり、かけた時間の長さが愛情の深さとして受け取られてきました。
そこにAI生成のファンアートが現れたとき、界隈の反応は割れました。推しの絵が増えるのを喜ぶ声がある一方、時間をかけていない絵には愛がこもっていないと感じるファンも少なくありません。コミッションサービスのSkebがAI生成作品を禁止し、VTuber事務所や作品の公式がファンアートのガイドラインでAIの扱いを定める動きも広がっています。消費より意味を重視するZ世代の価値観を踏まえると、ここで問われているのは絵の出来ではなく、そこに込められた時間と気持ちなのだとわかります。

クリエイター教育はどう変わるか

美術系の高校や専門学校、美大では、AIを禁止するのか教材に取り込むのかで対応が分かれています。基礎を身につける前にAIへ頼ると観察力や造形力が育たないという懸念と、これからのクリエイターはAIを使いこなす前提で育てるべきだという現実論。どちらにも理があります。
確かなのは、これから創作を始める子どもたちにとって、AIは最初からそこにある道具だということです。AIネイティブ世代の次に来る子たちは、手で描くこととAIで生成することを、対立ではなく選択肢として学ぶかもしれません。ただしそれは、いま痛みを抱えながら創作している若者の感情が消えることを意味しません。両方の声を記録し続けることに、研究の意味があると考えています。

若者研究所では、現役の学生研究員へのインタビューや定点調査を通じて、創作やAIをめぐる若者の本音を企業のマーケティングと商品開発に橋渡ししています。若者リサーチのご依頼お問い合わせはお気軽にどうぞ。

よくある質問

若いクリエイターはなぜAIイラストに反発しているのですか?

法律に違反しているかどうかよりも、自分や尊敬する絵師の作品が同意のないまま学習に使われたという感覚が中心にあります。長い時間をかけて身につけた画風が短時間で再現されることへの悔しさや、描くという営みが軽く扱われたという思いが反発の核になっています。

AIイラストを使う若者はどんな理由で使っているのですか?

構図の下書きや配色の検討など、制作の補助として使う人が目立ちます。時間を節約して仕上げに集中できる点に魅力を感じる一方、公言すると批判されることを知っているため、静かに使う人が多いのが実情です。描く技術がなくても頭の中のイメージを形にできる点を、表現の入り口として前向きにとらえる声もあります。

AIファンアートは推し活の中でどう受け止められていますか?

受け止め方は分かれています。推しの絵が増えることを喜ぶファンがいる一方、時間をかけて描くことを愛情表現と考えるファンには手抜きと映ることがあります。コミッションサービスや作品の公式が、AI生成作品の扱いをガイドラインで定める動きも広がっています。

この記事を書いた人

石崎健人
石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。

この記事の監修者

三上広葉
三上 広葉 | 若者の研究所 所長

2025年より株式会社バイデンハウス取締役。バイデンハウスの飲料・食料、美容・コスメ、SNSのリーダーシップ。Z世代、サブカルチャー、海外トレンドへの幅広い知見を強みにZ世代マーケティングの支援を得意とする。

この記事を書いた人

石崎 健人

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。