会社説明会が終わった直後、学生たちは一斉にスマホを取り出します。開いているのは企業の採用サイトではなく、OpenWorkの口コミ画面です。いま聞いたばかりの説明が社員の証言と食い違っていないか、受ける前に確かめる。研究所の学生研究員に言わせれば、これは疑い深さではなく就活の標準手順です。
Z世代の企業選びの軸は、給料の額面が並ぶよりずっと手前で動いています。
安定が7年連続の最多|ただし安定の中身が変わっている
マイナビの2026年卒大学生就職意識調査では、企業選択のポイントに安定している会社を挙げた学生が51.9%で7年連続の最多となり、初めて5割を超えました。給料の良い会社は25.2%です。数字だけ見れば、保守的で大企業志向の世代に読めます。
ところが同じ調査で、中小企業志向はむしろ前年より増えています。学生研究員に安定の中身を尋ねると、返ってくるのは会社の規模や知名度の話ではありません。心と生活が壊れないこと。望まない転勤や配属で人生を振り回されないこと。安定は会社の属性ではなく、入社後の自分の生活がどれだけ予測できるかという意味で使われています。
この読み替えを外したまま待遇の数字を並べても、彼らには届きません。給料より先に確かめられている条件は、大きく3つあります。
条件その1|配属と勤務地が入社前に見えるか
リクルートの就職みらい研究所の調査では、就職先を決める前に配属先が確約されているほうがよいと答えた学生が約8割にのぼります。一方で、入社を決める前に実際に配属先が確定していた学生は27.1%。希望と現実の間には大きな溝があります。
入社してから辞令で配属を知る総合職一括採用の方式は、Z世代の目には人生の主導権を会社へ丸ごと預ける契約に映ります。配属ガチャという言葉が定着したのは、その不安の裏返しです。初任配属の決まり方、転勤の有無と頻度、希望が通った実例。ここが曖昧な会社は、初任給が高くても候補から静かに外れていきます。
条件その2|会社の説明と口コミの証言が一致しているか
説明会や面接で語られる言葉を、彼らはそのまま受け取りません。残業時間、有給の取りやすさ、上司の当たり外れ。応募の前にOpenWorkなどの口コミサイトで裏を取り、内定が出たあとにもう一度読み返します。
ここで見られているのは口コミの点数そのものより、会社の発信と社員の証言の差分です。差分が小さい会社は誠実と判定され、差分が大きい会社は他の情報まで疑われます。都合の悪い数字を隠すより、退職率や残業の実態を自分から開示するほうが、審査でははるかに有利に働きます。
Z世代の就活は、志望から審査へ変わった。学生は入りたい会社を探しているのではなく、入っても生活が壊れない会社かどうかを確かめている。研究所ではそう捉えています。
条件その3|生活の自由度が守られるか
同じマイナビの調査では、福利厚生の充実を挙げた学生が39.2%、プライベートを確保できることが33.7%と、いずれも存在感を増しています。リモート勤務やフレックス、家賃補助は、彼らの中で実質の手取りと可処分時間に換算されます。
どの制度が歓迎されどの制度が警戒されるかは福利厚生の記事で詳しく扱いましたが、原則はひとつです。会社に時間を差し出す前提の制度は響かず、自分の生活を自分で設計できる制度が響く。会社と適切な距離を保ちたいというZ世代の仕事観が、そのまま企業選びの物差しになっています。
親世代の軸との違い|同じ安定でも中身が別物
| 観点 | 親世代の就活 | Z世代の就活 |
|---|---|---|
| 安定の意味 | 会社の規模と知名度 | 生活の予測可能性 |
| 給料の見方 | 額面と昇給カーブ | 家賃補助まで含めた実質の手取り |
| 情報源 | 会社案内とOB訪問 | 口コミサイトとSNSの証言 |
| 配属 | 辞令に従うのが当然 | 入社前の確約を求める |
この表のずれは、内定の最終盤で表面化します。本人は納得しているのに、親世代の物差しで測る親が首をかしげ、辞退につながる。オヤカクが採用の現場に定着したのは、二つの物差しが同じ食卓に並ぶ時代になったからです。採用担当には、本人向けと親向けの二種類の説明が求められています。
採用担当がまず着手すべき三つの開示
3つの条件を裏返せば、やるべきことは明確です。
- 初任配属と勤務地の決まり方、転勤の運用を採用ページに具体的に書く
- 自社の口コミを読み込み、発信との差分が大きい項目から先に説明する
- 制度は一覧で並べるのではなく、使われている実例とセットで見せる
どれも新しい制度をつくる話ではなく、すでにある事実を先回りして差し出す話です。自分たちは審査される側に回ったのだと認めた会社から、Z世代の信頼を取り戻しています。
ただし、3つの条件のうちどれを最優先で確かめるかは、業界や職種、採りたい層によってずれます。自社のターゲットが何を検索し、口コミのどこを読んでいるか。それを知るには、当事者に直接聞くのが最短です。
若者研究所では、現役の学生研究員へのグループインタビューや座談会を通じて、採用広報の見直しやメッセージ設計を支援しています。若者リサーチのご依頼やお問い合わせはお気軽にどうぞ。
よくある質問
Z世代は企業選びで何を最も重視していますか?
マイナビの2026年卒大学生就職意識調査では、安定している会社を挙げた学生が51.9%で最多でした。ただしその安定は会社の規模ではなく、配属や働き方を含めて入社後の生活を予測できることを指す場合が多く、給料の良い会社を挙げた学生は25.2%にとどまります。
配属ガチャは就職先の決定にどのくらい影響しますか?
リクルートの就職みらい研究所の調査では、約8割の学生が就職先を決める前に配属先が確約されているほうがよいと答えています。一方で実際に入社を決める前に配属先が確定していた学生は27.1%にとどまり、配属や勤務地の不透明さは内定辞退の理由になりえます。
採用担当はZ世代に向けて何から改善すべきですか?
初任配属や勤務地の決まり方、転勤の運用を採用ページに具体的に記載することが出発点です。あわせて口コミサイトの内容と自社の発信の食い違いを確認し、制度は利用実績とセットで示すと、情報を隠さない会社として信頼されやすくなります。


