エントリーシートを書くときだけAIを開く。その使い方は、いまの就活生から見るとすでに一世代前のものです。自己分析の壁打ちから企業研究の下調べ、面接練習の相手役、さらには不採用通知を受け取ったあとの気持ちの整理まで。研究所の学生研究員と話していると、就活のほぼ全工程にChatGPTが入り込んでいることがわかります。
就活はどこまでAI化したのか|工程別の活用マップ
まず全体像から。就活を6つの工程に分け、学生たちが実際にどうAIを使っているかを整理しました。
| 工程 | 主な使い方 | 気をつけたい点 |
|---|---|---|
| 自己分析 | 過去の経験を投げて深掘り質問をさせ、強みを言語化する | 答えを鵜呑みにすると誰の強みも似てくる |
| 企業研究 | 業界構造や競合の整理、逆質問の案出し | 情報が古いことがある。一次情報の確認が必須 |
| ES作成 | 構成案づくり、添削、文字数調整 | 全文生成は文体の均質さで見抜かれやすい |
| Webテスト | 対策段階で解説役として使う | 本番での使用は不正行為。替え玉受検と同じ扱い |
| 面接練習 | 面接官役を演じさせ、想定問答を壁打ちする | 話す練習は声に出さないと身につかない |
| お祈りメール後 | 落選理由の仮説出しと気持ちの言語化 | 相談相手をAIだけにしない |
このうちES作成はもっとも語られてきた領域で、ESでのAI活用の実態は別の記事で詳しく掘り下げています。ここで注目したいのは、書類の前と後、つまり自己分析や面接練習、そして感情のケアにまでAIが広がっている点です。
自己分析と企業研究|書き始める前の工程で差がつく
自己分析でのAIの役割は、答えを教えることではなく問い続けることです。アルバイトでの経験をひとつ投げると、なぜそう動いたのか、他の選択肢はなかったのかと深掘りの質問が返ってくる。キャリアセンターの面談は予約が埋まりがちですが、AIは深夜2時でも付き合ってくれます。
企業研究では、有価証券報告書や中期経営計画を貼り付けて要約させ、そこから逆質問の候補を出させるという使い方が定着しつつあります。もっとも、学習データが古く事実と違う説明が混ざることもある。仕上げに採用ページと一次情報を自分の目で確かめるかどうかが、精度の分かれ目になります。
面接練習からお祈りメールまで|感情の領域に入り込むAI
面接練習では、AIに面接官役を割り当てて想定問答を繰り返す学生が目立ちます。あえて厳しめに深掘りするよう指示して、圧迫気味の質問に慣れておくという工夫も聞きます。
印象的なのは、お祈りメールを受け取ったあとの使い方です。通知文を貼り付けて落選理由の仮説を出してもらう。もやもやした気持ちを吐き出して整理する。人には見せづらい落ち込みに何度でも付き合ってくれる相手として、AIが選ばれています。
就活は情報戦であると同時に感情戦でもあります。書類や面接という成果物の外側、心の持ちようの部分にまでAIが使われ始めたことは、この世代と道具との距離感をよく表しています。
使い倒す学生と使わない学生|静かに開く二極化
一方で、全員が使いこなしているわけではありません。研究所で話を聞いていると、学生はおおむね3つの層に分かれます。
- 工程ごとに指示文を作り込み、就活の相棒として使い倒す層
- ESの添削など一部の工程だけ、こわごわ使う層
- ずるをしている気がして、ほぼ使わない層
差がつくのは作業時間です。使い倒す層は1社あたりの準備を短縮して応募数と練習量を増やし、使わない層は同じ時間で数社分しか動けません。タイパを重んじるZ世代の仕事観が、そのまま就活の進め方に表れています。
とはいえ丸投げ組が有利かというと、そう単純ではありません。AIが書いた自己PRは面接での深掘りに耐えられず、二次面接以降で崩れるという声は学生側からも聞こえてきます。
企業側の受け止め|禁止から前提へ
企業の側も止まってはいません。ソフトバンクが2017年にエントリーシート選考へIBMのAIを導入すると発表したように、読む側のAI化はむしろ先行していました。学生がAIで書き、企業がAIで読む。この構図が見えてからは、利用を頭ごなしに禁止する空気は薄れています。
代わりに増えているのが、AI利用を前提にした選考設計です。面接での対話に比重を移す。その場で書かせる課題を挟む。AIをどう使ったかを堂々と語らせる。使ったこと自体ではなく、使い方に人柄が出ると考える企業が増えました。
ただし一線はあります。Webテストの替え玉受検が刑事事件になった例が報じられたように、本番の試験を他者やAIに肩代わりさせる行為は不正です。対策と代行の線引きだけは、はっきり引いておく必要があります。
若者研究所の視点|AIが変えたのは時間ではなく孤独
就活のAI活用というと効率化の話に聞こえますが、学生たちの使い方を見ていると、AIが引き受けているのは孤独のほうだと感じます。誰にも相談できない深夜に付き合ってくれる壁打ち相手であり、落ち込みを受け止める聞き役でもある。
それでも最後に問われるのは、自分の言葉で語れるかどうかです。AIに全工程を任せた就活は、面接という生身の場面で必ず息切れします。道具が進化するほど、自分にしか話せない経験の価値が上がっていく。就活のAI化が進んだ先に残るのは、案外そういう昔ながらの結論なのかもしれません。
若者研究所では、現役の学生研究員へのグループインタビューや定点調査を通じて、就活生のリアルな行動と本音を企業の採用活動やマーケティングに届けています。若者リサーチのご依頼やお問い合わせはお気軽にどうぞ。
よくある質問
就活でChatGPTを使うのはずるいことですか?
対策や練習の道具として使うこと自体は問題ありません。多くの企業も利用を前提に選考を設計し始めています。ただしWebテスト本番の代行のように、評価そのものをすり替える使い方は不正行為にあたります。
面接練習にChatGPTを使うにはどうすればいいですか?
面接官役を演じるよう指示し、志望動機や自己PRへの深掘り質問を繰り返してもらう方法が定番です。厳しめに質問するよう頼めば圧迫気味の展開にも慣れられます。仕上げに声へ出して話す練習と組み合わせると効果が高まります。
AIで作った回答は企業に見抜かれますか?
全文をそのまま生成した文章は、表現の均質さや具体性の乏しさから気づかれることが少なくありません。面接で深掘りされた際に答えに詰まると評価を落とします。構成や添削の補助にとどめ、経験は自分の言葉で語ることが大切です。


