Z世代はなぜ後払いを選ぶのか。クレカ離れとBNPLに見る新しい金銭感覚

給料日前の深夜、カートに入れたスニーカーの決済画面。クレジットカード番号の入力欄の下に、メールアドレスと携帯番号だけで使えるあと払いのボタンが並んでいます。若者研究所の学生研究員に支払いの話を聞くと、クレカは怖いから作りたくない、でも後払いはよく使うという答えが同じ口から返ってくる。矛盾しているようで、本人の中では一本につながっています。その結び目をほどいていきます。

現金離れの現在地|政府目標を前倒しで超えたキャッシュレス

経済産業省の算出では、日本のキャッシュレス決済比率は2024年に42.8%となり、2025年までに4割程度という政府目標を前倒しで達成しました。国はさらに、将来的には80%という世界最高水準まで見据えています。
Z世代はこの変化のただ中で育ちました。初めてのバイト代を銀行アプリの数字で受け取り、交通系ICとコード決済で一日を回す。紙幣を数えて渡す経験が薄いまま、お金はスマホの中の残高として身体になじんでいます。Z世代の金銭感覚が数字の最適化に向かうのは、この決済環境が土台にあるからです。

クレカは怖い|限度額と時差への不信

研究員たちのクレジットカードへの警戒は、上の世代が想像するより根深いものです。リボ払いで詰んだという体験談はSNSで繰り返し流れてきますし、限度額数十万円という枠は、月に数万円で暮らす学生の生活からするとサイズが合わず、実感が持てません。
使った総額が引き落とし日まで見えにくいことも不信を強めます。残高と履歴が常に画面に表示される決済で育った目には、クレカだけが例外的に見通しの悪い支払い手段に映るのです。

それでも後払いは使う|Paidyと3,000億円の買収劇

ところが同じ研究員が、通販ではBNPLと呼ばれる後払い決済を迷いなく選びます。商品を先に受け取り、翌月にまとめてコンビニ払いや口座振替で精算する仕組みで、日本ではPaidyが代表格です。メールアドレスと携帯電話番号だけで始められ、カードを持たない学生でもその場で使えます。
2021年には米PayPalがこのPaidyを約3,000億円で買収しました。クレジットカードを経由しない若い消費者への入り口に、それだけの値札がついたということです。回数を指定して分割しても手数料がかからない支払い方まで用意され、カードの分割払いやリボに感じる後ろめたさとは別の顔で、後払いは生活に入り込んでいます。

借りると精算ずらしの違い|同じ人の中で起きていること

クレカへの警戒と後払いの気軽さは、金額の大小ではなく体感の違いから来ています。研究員の語り口をもとに二つを並べ直すと、別物として扱われている理由がはっきりします。

体感 クレジットカード スマホの後払い
入口 審査書類と年会費を意識する契約 メールアドレスと携帯番号で数分
金額の器 数十万円の枠。生活の外のサイズ 少額中心。ふだんの買い物のサイズ
見え方 引き落としまで総額が見えにくい 利用額と締め日がアプリに常に出る
心の分類 借金の入り口。リボの怖さとセット 支払日の調整。借りている感覚が薄い

Z世代にとって後払いは信用の前借りではなく、欲しい日と入金日の時差を埋める調整弁です。借りた感覚を残さない設計こそBNPLの発明であり、同時に最大の危うさでもある。研究所ではそう捉えています。

後払いが動く場面|推し活とリセールの締め切り

後払いが選ばれるのは、生活費の穴埋めよりも、いま逃すと二度と手に入らないものの前です。推しのグッズにライブ遠征、発売日が決まったコラボスニーカー。推し活の出費は締め切りつきでやってくるため、給料日との時差を埋める手段が要るのです。
買ったものをリセールで売り、その売上を支払いに充てる動きも研究員からよく聞きます。後払いで確保し、使い、売って精算する。所有に執着しないZ世代の消費行動と後払いは、構造的に相性がいいのです。

気軽さの代償|決済サービスは見える化で選ばれる

影もあります。国民生活センターには後払い決済をめぐる若年層の相談が寄せられ、注意喚起も行われてきました。翌月一括型の後払いはクレジットカードほど厳格な審査を経ないぶん、使いすぎの歯止めは利用者の画面の中にしかありません。
だからこそ、金融や決済のサービス設計では数字の見える化が信頼の生命線になります。

  • 利用額と締め日を隠さず、アプリの最も目立つ場所に置く
  • 限度額は大きさより納得感。生活のサイズに合った器を示す
  • 分割への誘導を急がない。信頼が育つ前の一押しは離脱を生む

Z世代は借りている感覚を嫌う一方で、数字さえ見えていれば自分を律せると考えています。隠さず、盛らず、常に表示する。その誠実さが、次の決済サービスが選ばれる条件です。

若者研究所では、現役の学生研究員によるグループインタビューや定点調査を通じて、金融や決済サービスの企画とマーケティングを支援しています。若者リサーチのご依頼お問い合わせはお気軽にどうぞ。

よくある質問

BNPLとはどのような決済サービスですか?

Buy Now Pay Laterの略で、商品を先に受け取り、代金を翌月などにまとめて支払う後払い決済です。日本ではPaidyなどが知られており、メールアドレスと携帯電話番号だけで始められる手軽さから、クレジットカードを持たない若年層にも広がっています。

Z世代はなぜクレジットカードを避けるのですか?

リボ払いの失敗談がSNSで繰り返し共有されることに加え、限度額が生活の規模に対して大きすぎて実感を持ちにくいことが背景にあります。利用総額が引き落とし日まで見えにくい点も、残高を常に画面で確認できる決済に慣れた世代には不安の種になっています。

後払い決済に危うさはありませんか?

翌月一括型の後払いはクレジットカードほど厳格な審査を経ないため、使いすぎに気づきにくい面があります。国民生活センターにも後払い決済をめぐる若年層の相談が寄せられており、利用額と支払日をこまめに確認しながら使うことが大切です。

この記事を書いた人

石崎健人
石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。

この記事の監修者

三上広葉
三上 広葉 | 若者の研究所 所長

2025年より株式会社バイデンハウス取締役。バイデンハウスの飲料・食料、美容・コスメ、SNSのリーダーシップ。Z世代、サブカルチャー、海外トレンドへの幅広い知見を強みにZ世代マーケティングの支援を得意とする。

この記事を書いた人

石崎 健人

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。