ガクチカを盛る学生は嘘つきか?就活インフレの構造と人事が見抜ける境界線

就活を終えた学生と話していると、かなりの割合で同じ告白を聞きます。ガクチカ、正直少し盛りました、と。
ただし彼らは、ありもしない経験をゼロから作ったわけではありません。実際にやってきたことの役職や成果を、実物より少しだけ大きく見せた。この「少しだけ」が全員分積み重なった結果が、いま就活市場で起きているガクチカのインフレです。学生を責める前に、まず盛るという行為の中身と、それを生む構造を見ていきます。

盛るの実態|ゼロからの捏造ではなく解釈の拡張

研究員たちの話を聞く限り、盛るという行為の中身はだいたい決まっています。サークルの会計担当が、組織の財務改革を主導したことになる。飲食店のアルバイトで先輩に相談したシフトの工夫が、店舗運営の改善提案に格上げされる。数人で回した企画の成果が、いつのまにか自分ひとりの実績として語られる。
共通するのは、事実の核を残したまま、自分の寄与度と言葉の格だけを引き上げる操作だという点です。そして学生自身の意識も、段階によってはっきり分かれています。

段階 やっていること 学生の意識
言い換え アルバイトを接客業務における顧客対応と表現する 盛ったとは思っていない
役割の拡大 メンバーの一員だった企画を、自分が主導したと語る グレーだと自覚している
成果の誇張 売上や集客への貢献を、実感より大きく語る 後ろめたさが残る
捏造 存在しない経験や役職を作り出す 明確に嘘と認識し、ここには踏み込まない学生が大半

多くの学生が行き来しているのは、言い換えから成果の誇張までの範囲です。捏造との間には、本人たちの中で太い線が引かれています。

なぜ盛らざるを得ないのか|ガクチカ市場のインフレ構造

盛りが広がった背景には、就活情報の共有が進みすぎたという皮肉な事情があります。内定者のエントリーシートが公開され、書き方講座が体系化され、成功パターンがテンプレートとして出回る。語りの水準が全体で底上げされた結果、学生団体の代表や長期インターンでの事業立ち上げといった派手な経験が、標準装備のように並ぶ市場ができあがりました。
そこにコンビニのアルバイトを3年続けたという事実をそのまま置いても、勝負にならないように見えてしまう。実際に勝負にならないかどうかではなく、そう見えてしまうことが学生を誇張へ向かわせます。

さらに拍車をかけたのが生成AIです。生成AIで書くエントリーシートが当たり前になり、文章の完成度では差がつかなくなりました。残る差別化の余地はエピソードそのものの派手さだけ。周囲が盛るなら自分も盛らないと沈む、典型的な軍拡競争の構造です。

盛る学生を責めても、この構造は変わりません。全員が誇張込みの自己申告を出し合う市場では、正直であることが戦略的に不利になってしまう。学生の倫理の問題ではなく、市場設計の問題として捉える必要があります。

学生に罪悪感はあるのか|研究員たちの本音

研究所で就活が話題になると、盛ることへの後ろめたさを口にする学生は少なくありません。面接で深掘りされて冷や汗をかいた。盛った自分で内定を取れば、入社後のギャップに苦しむのは自分だと分かっている。そんな声が続きます。
一方で、通過儀礼だと割り切る学生もいます。自分を大きく見せる編集力も社会で求められる能力のうちだ、という意見すらある。彼らにとって盛るは嘘の同義語ではなく、書類選考を通るための書式に近いものになっています。
ただ、どちらの学生にも共通するのは、選考用の自分と素の自分がずれていくことへの疲れです。この疲れは、Z世代の仕事観の根っこにある、自分らしくいられる場所で働きたいという欲求と正面からぶつかっています。

人事は見抜けるのか|深掘りで崩れる盛りと通過する盛り

経験を積んだ面接官は、エピソードの細部を尋ねます。そのとき具体的に何をしたのか。メンバーは何人いて、意思決定は誰がしたのか。反対した人にはどう向き合ったのか。盛られた部分は細部の解像度が急に落ちるため、この深掘りには耐えられません。
ただし現実の選考では、面接時間は短く、応募者は多い。すべてのガクチカを検証するのは不可能で、深掘りが甘ければ盛りはそのまま通過します。学生の側から見れば、見抜かれるかどうかは半ば運です。だから盛りは割に合うという学習が成立し、インフレはさらに進みます。

盛らない学生が損をしない面接設計|企業にできること

見抜く技術を磨くより、盛る必要のない選考を設計するほうが建設的です。研究員たちの声から見えてくる方向性を挙げます。

  • 肩書や役職ではなく、本人が取った行動を時系列の事実で聞く
  • 成果の大きさではなく、つまずいたときに何を考えどう動いたかを評価する
  • 平凡な経験を深く語れることを、派手な経験を浅く語ることより高く評価すると学生に明示する
  • ガクチカ一本に頼らず、価値観や相性のすり合わせに面接時間を割く

エピソードの派手さを競わせる選考は、盛る技術の高い学生を集める選考でもあります。肩書ではなく行動の事実を見るという姿勢を採用側が打ち出せば、学生は等身大の経験を安心して話せるようになり、入社後のミスマッチも減っていく。働くことへの価値観が変わりつつある世代だからこそ、選考の場の正直さが企業への信頼に直結します。

若者研究所では、現役の学生研究員へのインタビューや定点調査を通じて、就活生の本音を採用コミュニケーションの設計に活かす支援をしています。若者リサーチの依頼お問い合わせはお気軽にどうぞ。

よくある質問

ガクチカを盛るのは嘘になりますか?

存在しない経験や役職を作り出す捏造は明確に避けるべきです。一方で、実際の経験の範囲内で表現を整えたり要点を強調したりすることは広く行われています。境界の目安は事実の核が残っているかどうかで、面接で細部を深掘りされても自分の言葉で答えられる範囲にとどめることが大切です。

人事はガクチカの盛りを見抜けますか?

経験豊富な面接官は、そのとき具体的に何をしたのかという細部の質問で誇張に気づくことがあります。盛られた部分は細部の解像度が落ちるためです。ただし面接時間には限りがあり、すべての応募者を検証することはできません。見抜くことより、行動の事実を丁寧に聞く質問設計のほうが有効だと考えられます。

平凡なガクチカしかない学生は不利ですか?

経験の派手さそのものより、その経験の中で何を考え、どう行動したかを自分の言葉で語れるかが評価されます。ありふれたアルバイトの経験でも、課題への向き合い方や工夫を具体的に話せれば十分に評価の対象になります。無理に誇張するより、深く語れる題材を選ぶことが結果的に有利に働きます。

この記事を書いた人

石崎健人
石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。

この記事の監修者

三上広葉
三上 広葉 | 若者の研究所 所長

2025年より株式会社バイデンハウス取締役。バイデンハウスの飲料・食料、美容・コスメ、SNSのリーダーシップ。Z世代、サブカルチャー、海外トレンドへの幅広い知見を強みにZ世代マーケティングの支援を得意とする。

この記事を書いた人

石崎 健人

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。