出世したくない若者は本当か|罰ゲーム化する管理職と学生のリアル

出世したくない若者が増えたと、人事の世界では長く言われ続けてきました。ところが研究所の学生研究員たちにこの話を向けると、返ってくる反応は少し違います。嫌なのは出世そのものではなく、いま目の前に見えている管理職の姿だというのです。
データと学生たちの声を突き合わせると、この定番フレーズの解像度はぐっと上がります。

出世したくない若者はどれくらいいるのか|数字で見る現在地

パーソル総合研究所が世界18カ国・地域で実施した就業実態に関する調査では、現在の勤務先で管理職になりたいと答えた日本の割合は2割に届かず、比較した国・地域のなかで最下位でした。管理職への意欲の低さは若者に限った話ではなく、日本の働く人全体に広がる傾向です。

それでもこのテーマが若者論として語られるのは、採用や育成の現場で最初にぶつかる壁だからでしょう。管理職を目指したいと語る学生が減った、昇進の打診を断る20代が出てきた、といった肌感覚が積み重なり、出世したくない若者という言葉に集約されてきました。

学生に聞くと答えが変わる|嫌なのは椅子ではなく座っている人の顔

研究所で学生研究員と話していると、昇進を絶対に断ると言い切る声は実は多くありません。条件次第で考える、その役割が面白そうなら引き受ける、という留保つきの答えが目立ちます。
マイナビキャリアリサーチLabの分析でも、Z世代は給料を上げるキャリアアップと管理職になることを必ずしも同じものとして捉えておらず、向上心そのものが失われたわけではないと指摘されています。

学生たちが拒んでいるのは管理職という椅子ではなく、その椅子に座っている大人の疲れた顔です。役割の設計が変われば、答えも変わるはずです。研究所ではそう見ています。

管理職が罰ゲームに見える理由|学生から見えている光景

ではなぜ、いまの管理職はそれほど魅力なく映るのでしょうか。学生たちの語りを整理すると、見えている光景はかなり具体的です。

観点 学生から見えている管理職の姿
業務量 自分の仕事を抱えたまま部下の面倒も見る二重稼働
報酬 残業代が外れ、責任の重さほど手取りが増えていない
責任 部下のミスもハラスメントのリスクも一手に引き受ける
私生活 休日の連絡対応や板挟みの気疲れで余白が消える

アルバイト先の店長、就活で出会う面接官、SNSで流れてくる管理職の嘆き。学生は入社する前から大量のサンプルを観察しています。罰ゲームという言い方は乱暴ですが、割に合わない役割という印象は、観察の積み重ねから生まれた学習の結果なのです。

出世とキャリアアップが分離した|物差しが会社の外に移った

もうひとつの変化は、キャリアの物差しが会社の中の階段から市場での自分の値段へ移ったことです。Z世代の仕事観を追いかけていると、彼らが手に入れたがっているのは肩書きよりも持ち運べる中身だとわかります。

  • どこの会社でも通用する専門性やスキル
  • 自分の裁量で動ける範囲の広さ
  • 生活を犠牲にしない働き方の持続性

この物差しで見ると、社内の管理職ポストは必ずしも上がりではありません。マネジメント経験が市場価値になると腹落ちすれば手を挙げるし、そうでなければ専門職として深掘りする。出世したくないのではなく、出世が唯一のゴールではなくなった、というのが正確なところです。

静かな退職と同じ根っこ|意欲の消滅ではなくエネルギーの再配分

この現象は、必要以上に頑張らない働き方として話題になった静かな退職と地続きにあります。どちらも仕事への意欲が消えたのではなく、仕事に注ぐエネルギーの配分を会社任せにしないという意思決定の表れです。
会社が示す階段を疑わずに登る時代が終わり、登る階段を自分で選ぶ時代になりました。出世したくない若者という言葉は、その転換を古い座標系から眺めたときの見え方だと言えます。

企業はどう向き合えばいいのか|罰ゲームの解体から始める

若者の意識を変えようとする研修よりも先に、手をつけるべきは管理職という役割そのものの再設計です。

  • プレーヤー業務との二重稼働を減らし、マネジメントに専念できる体制をつくる
  • 責任の重さに見合う報酬と権限をセットで示す
  • 管理職にならずに昇給できるルートを用意し、複線型のキャリアを見せる
  • 楽しそうに働く管理職の姿を、若手の目に入る場所に増やす

そして何より、出世したくない若者とひとくくりにせず、当事者に直接聞くことです。Z世代の働く価値観は、想像で補うにはあまりに速く動いています。

若者研究所では、現役の学生研究員によるグループインタビューや定点調査を通じて、企業の人事施策やマーケティングを支援しています。若者リサーチのご依頼お問い合わせはお気軽にどうぞ。

よくある質問

出世したくない若者は本当に増えているのですか?

パーソル総合研究所が世界18カ国・地域で行った調査では、現在の勤務先で管理職になりたいと答えた日本の割合は2割に届かず最下位でした。ただし管理職志向の低さは若者に限らず、日本の働く人全体に見られる傾向です。

若者はなぜ管理職になりたがらないのですか?

業務量と責任が増える一方で、報酬や裁量が見合っていないように見えることが大きな理由です。身近な管理職が疲れて見えるという観察の積み重ねが、割に合わない役割という印象につながっています。

出世意欲がない若手にはどう対応すればよいですか?

意識改革の研修よりも、管理職の業務量や報酬など役割そのものの再設計が先です。管理職にならずに昇給できる複線型のキャリアを用意し、いきいき働く管理職の姿を見せることも効果があります。あわせて当事者の声を直接聞くことが欠かせません。

この記事を書いた人

石崎健人
石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。

この記事の監修者

三上広葉
三上 広葉 | 若者の研究所 所長

2025年より株式会社バイデンハウス取締役。バイデンハウスの飲料・食料、美容・コスメ、SNSのリーダーシップ。Z世代、サブカルチャー、海外トレンドへの幅広い知見を強みにZ世代マーケティングの支援を得意とする。

この記事を書いた人

石崎 健人

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。