Z世代はなぜ副業をしたがるのか?本業一本に不安を抱く若者の本音

夜10時のワンルームに、小さなリングライトが灯ります。昼は住宅メーカーで営業をしている24歳が、スマホで受託先のSNSアカウントに明日の投稿を予約し、寝る前にタイミーで週末の倉庫バイトを入れる。研究員のOBやOGと話していると、こうした夜の風景は少しも珍しくありません。給料をもらう仕事がありながら、なぜもう一つの仕事を持ちたがるのか。Z世代の副業観をほどいていきます。

出発点は2018年|副業解禁の後に社会へ出た最初の世代

2018年1月、厚生労働省がモデル就業規則を改定し、労働者は許可なく他の会社の業務に従事しないこと、という一文を削除しました。多くの企業が就業規則の手本にしてきた文書から、副業禁止の根拠が消えた出来事です。世の中が副業元年と呼んだこの転換の後に、Z世代は社会へ出ています。
上の世代にとって副業は、会社に隠れて行う後ろめたい行為でした。Z世代にとっては、就職活動の時点で会社説明会の資料に載っている制度の一つです。同じ言葉でも、背負ってきた意味の重さがまるで違います。

数字で見る現在地|やりたい人が、やっている人の1.6倍いる

総務省の2022年就業構造基本調査では、副業を持つ人は305万人でした。注目すべきはその外側です。いまの仕事に加えて別の仕事もしたいと考える追加就業希望者は493万人にのぼり、5年前より93万人増えました。実行している人より、うずうずしている人のほうがずっと多いのです。
その入り口を一気に低くしたのがスキマバイトアプリでした。タイミーは2024年7月に東証グロース市場へ上場し、同年12月には累計登録ワーカーが1,000万人を突破しています。職業別で最も多いのは学生ですが、会社員も3割近くを占めます。スキマバイトの浸透で、副業は準備の要る挑戦から、思い立った日に始められるものへ変わりました。

Z世代の副業の形|スマホ一つで小さく試す

具体例 お金以外に得ているもの
スキマバイト タイミーで倉庫作業や飲食の単発シフト いろいろな職場を下見する経験
発信と制作 SNS運用代行、動画編集、イラスト 社外に見せられる実績
物販 フリマアプリでのせどり、ハンドメイド販売 仕入れと値付けの商売感覚
スキル販売 ココナラなどでの制作や相談の受注 自分の技能に値段がつく体験

共通するのは、まとまった元手も、退路を断つ覚悟も要らないことです。スマホ一つで小さく始めて、合わなければ静かにやめる。起業ほど重くなく、雇われ仕事ほど受け身でもない。この身軽さが、副業を特別な決断から日常の選択肢へ引き下ろしました。

本音その1|収入源が一つしかない状態のほうが怖い

動機を尋ねると、まず出てくるのはやはりお金です。ただしその中身は、遊ぶためというより備えるためのお金に近い。物価は上がり、会社の業績にも自分の雇用にも、続く保証はどこにもない。終身雇用の維持は難しいと経営側が公言するのを、彼らは学生のうちにニュースで聞いています。
だから収入源が一つしかない状態は、彼らの目に身軽ではなく無防備と映ります。Z世代の仕事観の核心には、会社ではなく自分の稼ぐ力に安定を求める感覚がありますが、副業はその実践編です。先取り貯蓄やポイ活と同じ棚に並ぶ、金銭感覚の延長線上の防衛策だと言えます。

本音その2|自分の名前で稼ぐ500円の重み

もう一つの動機は、金額では測れません。会社の看板を外した自分に、市場はいくらの値段をつけるのか。それを確かめたいという欲求です。
SNSの運用代行で月に数千円、ハンドメイドの雑貨が一つ売れて500円。時給に換算すれば割に合わない仕事を、それでも彼らは続けます。給与振込とは別に入ってくる小さな金額が、誰かが会社ではなく自分個人を選んでくれた証拠だからです。

Z世代にとって副業は第二の財布ではなく、第二の名刺です。会社に人生を預けないための保険であり、自分の名前で立てるかどうかを試す練習台でもある。研究所ではそう捉えています。

社内の階段に魅力を感じない、出世したくない若者の話と、これは地続きです。昇進で肩書を積む代わりに、社外で通用する実績を積む。向上心が消えたのではなく、向かう先が社内から市場へ移っただけです。

企業はどう向き合うか|禁止が発しているメッセージ

採用の場面で、副業禁止は待遇の一項目にとどまりません。あなたの時間と可能性は全部こちらのものだ、という宣言として読まれます。逆に副業を認める会社は、社員の市場価値が上がっても選ばれ続けるという自信の表明に見えます。
実際、副業で身につけた発信力や商売感覚が本業に還ってくる例は、研究員の周りでも珍しくありません。囲い込むか、行き来を認めて選ばれ続けるか。Z世代の採用と定着を考える企業にとって、副業への姿勢は踏み絵になりつつあります。

若者研究所では、現役の学生研究員へのインタビューや定点調査を通じて、Z世代の働き方やキャリア観を企業の採用・組織づくりや商品開発につなげるお手伝いをしています。若者リサーチのご依頼お問い合わせはお気軽にどうぞ。

よくある質問

Z世代はどのくらい副業をしているのですか?

総務省の2022年就業構造基本調査では、副業を持つ人は305万人、いまの仕事に加えて別の仕事もしたい追加就業希望者は493万人でした。希望者が実行者を大きく上回っており、スキマバイトアプリの普及で若い世代ほど始めやすい環境が整っています。

Z世代が副業をする目的はお金だけですか?

収入の上乗せだけでなく、収入源を分散して本業一本の状態への不安を減らすことや、会社の看板を外した自分の市場価値を確かめることが大きな動機です。金額が小さくても、自分の名前で稼げた経験そのものに価値を感じています。

企業は社員の副業を認めるべきですか?

副業禁止は若手から、社員の時間と可能性を囲い込む姿勢として受け取られやすくなっています。情報漏えいや長時間労働への配慮は前提として必要ですが、条件付きでも認める姿勢を示すことが、採用と定着の両面で有利に働きます。

この記事を書いた人

石崎健人
石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。

この記事の監修者

三上広葉
三上 広葉 | 若者の研究所 所長

2025年より株式会社バイデンハウス取締役。バイデンハウスの飲料・食料、美容・コスメ、SNSのリーダーシップ。Z世代、サブカルチャー、海外トレンドへの幅広い知見を強みにZ世代マーケティングの支援を得意とする。

この記事を書いた人

石崎 健人

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。