アンケートの自由回答欄をスクロールしていくと、特になし、なんとなく、という回答が延々と続く。集計グラフはきれいに描けたのに、肝心の若者の顔がまるで浮かんでこない。
若者調査の相談で、研究所が最初に打ち明けられる悩みはだいたいこれです。数字を取るべきだったのか、会って話を聞くべきだったのか。定量調査と定性調査の違いを、手法の選び方という目線で整理します。
定量調査と定性調査の違い|数値で測るか、言葉を掘るか
定量調査は、選択肢を用意したアンケートなどで大人数から数値データを集め、割合や平均で全体像をつかむ方法です。定性調査は、インタビューや観察で少人数の言葉と行動を深く掘り、数値にならない理由や文脈をつかむ方法です。まず教科書どおりに並べます。
| 比較軸 | 定量調査 | 定性調査 |
|---|---|---|
| 得られるデータ | 数値。選択率やスコア | 言葉、行動、表情 |
| 対象人数 | 数百から数千人 | 数人から十数人 |
| 主な手法 | ネットアンケート、会場調査 | デプスインタビュー、グループインタビュー、行動観察 |
| 主な役割 | 仮説の検証、実態の把握 | 仮説の発見、理由の探索 |
| 答えられる問い | どれくらい多いか | なぜ、どのように |
どれくらいの人がそうなのかを測るのが定量、なぜそうなのかを掘るのが定性。優劣の話ではなく、答えられる問いの形が違います。確かめたい仮説がすでにあるなら定量、仮説そのものを探したいなら定性が出発点です。
若者調査に特有の事情|アンケートには建前が返ってくる
ただ、若者が相手のときは、この整理だけでは足りません。SNSとともに育った世代は、質問に対して出してもいい自分を返す技術がとびきり高いからです。
調査の世界には、回答者が世間的に望ましい答えを選んでしまう社会的望ましさバイアスという概念があります。学校で無数のアンケートに慣れ、SNSで他人の目を意識し続けてきた若者は、このバイアスがとりわけ強く出やすい相手です。環境に配慮した商品を選びたいと回答した学生が、翌週にはパッケージのかわいさと値段でコスメを選ぶ。研究員と話していると、そんな場面に何度も出会います。
嘘をついているわけではありません。設問を前にすると、正解を書くための回路が自動的に立ち上がってしまうのです。
アンケートに返ってくるのは、若者が出してもいいと判断した自分。買う瞬間の本音は、たいてい選択肢の外側にあります。研究所はそう割り切って、設問の外を掘る調査を必ずセットで設計します。
n=1の深掘りが効く場面|ミルクシェイクとN1分析
数人の話が当てになるのか、という疑問には実例で答えられます。ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセンが紹介したミルクシェイクの調査は、購買データをいくら分析しても売上を伸ばせなかったファストフード店が、店頭で客を観察して話を聞いたことで、朝の退屈な通勤時間をしのぐために買われているという発見にたどり着いた話です。マーケターの西口一希さんも、著書『実践 顧客起点マーケティング』で、たった一人の顧客を深く理解するN1分析から商品アイデアを起こす方法を提唱しました。
打ち手のヒントは数の中ではなく、一人の生活の文脈に埋まっています。それを掘り当てる道具がデプスインタビューであり、n=1のインサイトの読み解きです。
組み合わせの順番|定性で見つけて、定量で確かめる
実務では、どちらか一方に決める必要はありません。王道は、定性調査で仮説を見つけ、定量調査でその仮説がどれだけ広がりを持つかを確かめる順番です。インタビューで拾った本音を選択肢に翻訳できるので、アンケートの設計が具体的になり、特になしの自由回答も減ります。
逆の順番も機能します。アンケートで想定外の数字が出たら、その理由をインタビューで掘り下げる。数字が問いを立て、言葉が答えるという分業です。
予算の都合で一度しか調査できないなら、いま欲しいのは判断の自信なのか、それとも企画の発想なのかを自問してください。前者なら定量に、後者なら定性に張るのが基本です。
どちらから始めるか|3つの判断軸
迷ったときは、次の3つを順に確かめてください。
- 仮説はあるか。確かめたい仮説を一文で言えるなら定量、まだ言えないなら定性から
- 問いの形はどちらか。どれくらいと聞きたいなら定量、なぜと聞きたいなら定性
- 結果を誰に使うか。社内を数字で動かす局面なら定量、企画の種が欲しい局面なら定性
付け加えるなら、若者調査では定性の比重を通常より上げることをすすめます。建前の混ざりやすいアンケートだけで判断するのは、この世代に限っては危うい。数字は社内説得の道具として最後まで残しつつ、仮説づくりの初手は生身の若者に会うところから始めるのが、遠回りに見えて確実です。調査全体の組み立ては若者調査の進め方で整理しているので、あわせて手元に置いてください。
若者研究所では、現役の学生研究員100人以上のネットワークを生かし、グループインタビューやデプスインタビューによる仮説の発見から、アンケートによる検証までを一体で設計しています。若者リサーチのご相談やお問い合わせはお気軽にどうぞ。
よくある質問
定量調査と定性調査の違いは何ですか?
定量調査は選択式のアンケートなどで多くの人から数値データを集め、割合や平均で全体像を測る方法です。定性調査はインタビューや観察で少人数の言葉と行動を深く掘り、理由や文脈を探る方法です。どれくらい多いかに答えるのが定量、なぜそうなのかに答えるのが定性で、答えられる問いの形が異なります。
若者調査では定量調査と定性調査のどちらを選ぶべきですか?
確かめたい仮説がすでにあるなら定量調査、仮説を探す段階なら定性調査が出発点です。若者はSNSや学校のアンケートに慣れており、世間的に望ましい建前の回答を選びやすいため、若者調査では定性調査の比重を通常より高めることをおすすめします。
定量調査と定性調査は組み合わせて使えますか?
使えます。定性調査で仮説を見つけ、定量調査でその仮説の広がりを検証する順番が王道です。逆に、アンケートで想定外の数字が出たあとに、その理由をインタビューで掘り下げる進め方も有効です。数字が問いを立て、言葉が答えるという分業と考えると設計しやすくなります。


