アンケートで聞けば、答えは返ってきます。ただ、その答えが実際の行動と一致しているとは限りません。Z世代の調査をしていると、本人が語る自分と実際の行動のあいだにあるズレに何度も出会います。
このズレを埋めるのがエスノグラフィーです。生活の現場に入り込み、言葉ではなく行動そのものを観察する調査手法です。
エスノグラフィーとは|言葉ではなく行動を見る調査
エスノグラフィーはもともと文化人類学の手法です。研究者が対象の集団と生活をともにして、その文化を内側から記述する。これをマーケティングに応用したものがエスノグラフィー調査です。
インタビューやアンケートが本人に語ってもらう手法だとすれば、エスノグラフィーは本人の行動をそのまま見る手法です。質問をぶつけるのではなく、部屋の使い方やスマホの触り方、店頭での迷い方を観察し、そこから意味を読み取っていきます。
人は自分の行動をすべて説明できるわけではありません。むしろ、説明できない部分にこそ本音が眠っています。
若者調査でエスノグラフィーが強い理由
若者研究所がエスノグラフィーを重視するのは、若者の消費や情報行動が、言語化しにくい領域に集中しているからです。
- スマホの操作は無意識の連続で、本人はアプリを行き来した経路を覚えていない
- 友人との空気感で決まる消費は、あとから理由を聞かれても説明できない
- 毎日の習慣は本人にとって当たり前すぎて、話題にすら上がらない
インタビューで大人に囲まれた若者は、期待される答えを察して話す傾向もあります。観察であれば、取り繕う余地がありません。研究員と話していても、口では飽きたと言っていたアプリを翌日も開いている、そんな場面は珍しくないのです。
こうした特性を踏まえると、若者リサーチの手法を選ぶうえで、エスノグラフィーは有力な選択肢になります。
エスノグラフィーの実施手順|代表的な4つの観察スタイル
実際の調査では、目的に合わせて観察の形を選びます。代表的なスタイルは次の4つです。
| スタイル | 内容 | 見えるもの |
|---|---|---|
| 同行観察 | 放課後や休日の行動に同行する | 移動、寄り道、友人との過ごし方 |
| 自宅訪問 | 部屋や持ち物を見せてもらいながら話す | 生活動線、モノの置き方、大切にしているもの |
| スマホ画面共有 | 普段のスマホ操作を画面ごと見せてもらう | アプリの使い分け、検索の癖、SNSの回遊 |
| 買い物密着 | 店頭やECでの購買に付き添う | 売場での迷い、比較の仕方、購入の決め手 |
進め方の骨格はどのスタイルでも共通です。まず何を明らかにしたいのかを一文で定義します。次に対象者を選び、観察する場面と時間を設計します。当日は誘導せず、気になった行動をメモと写真で記録していきます。終わってから記録を並べ、繰り返し現れる行動のパターンを読み解きます。
大切なのは、その場で解釈を急がないことです。観察中は事実だけを拾い、意味づけは分析の段階で行います。
もうひとつ、観察の質を左右するのが対象者との関係づくりです。初対面の大人にいきなり生活を見せてくれる若者はいません。事前のやり取りで警戒を解き、当日は評価する人ではなく面白がって見てくれる人という立ち位置をつくる。この準備が、観察できる行動の自然さを決めます。
インタビューと組み合わせて仮説を確かめる
エスノグラフィーは観察に徹する手法なので、行動の理由までは教えてくれません。そこで力を発揮するのが、観察のあとに行うデプスインタビューです。
観察で見つけた気になる行動を、本人に具体的に尋ねます。なぜあの棚の前で長く迷ったのか。なぜ投稿の直前に文面を消したのか。行動という証拠を手にした状態での質問は、抽象的な質問よりはるかに深い答えを引き出します。
観察が仮説をつくり、インタビューが仮説を検証する。この往復が定性調査の精度を決めます。
エスノグラフィーが向くテーマ、向かないテーマ
万能な手法ではありません。向き不向きを見極めてから設計することが、調査の費用対効果を左右します。
| 向くテーマ | 向かないテーマ |
|---|---|
| 無意識の習慣や使い方の実態を知りたい | 市場全体の割合や規模を数字で知りたい |
| 新商品のアイデアの種を探したい | 複数案のどちらが好まれるか白黒つけたい |
| 言葉にしにくい不満や工夫を発見したい | 短期間で大人数の意見を集めたい |
数を測る調査ではなく、深さを掘る調査です。仮説がまだない探索の段階でこそ、観察は最大の価値を発揮します。逆に、仮説の検証や量の把握が目的なら、アンケートなど定量の手法を選ぶほうが適切です。
手法選びに迷ったら、若者調査の全体像に立ち返り、目的から整理し直すのが近道です。
若者研究所では、現役の学生研究員が身近にいる強みを生かし、自宅訪問やスマホ画面共有を含むエスノグラフィー調査を設計しています。若者リサーチのご依頼やお問い合わせはお気軽にどうぞ。
よくある質問
エスノグラフィー調査とはどのような手法ですか?
調査対象者の生活の現場に入り込み、言葉ではなく行動そのものを観察する定性調査の手法です。文化人類学に由来し、本人が言語化できない習慣や無意識の行動から、商品開発やマーケティングのヒントを見つけます。
若者向けの調査でエスノグラフィーが有効なのはなぜですか?
若者のスマホ操作や友人との消費行動は無意識に行われることが多く、質問しても本人がうまく説明できないためです。行動を直接観察すれば、取り繕いのない実態をつかめます。
エスノグラフィーとインタビューはどう使い分ければよいですか?
観察で行動の事実を集めて仮説をつくり、インタビューでその理由を本人に確かめる組み合わせが効果的です。仮説がまだない探索の段階では観察を、理由の深掘りには対話を選びます。


