退職代行を使う新卒の心理|直接言えばいいのにが通じない理由

入社からわずか数週間の新卒が、退職代行サービスを使って会社を辞めていく。毎年4月から5月になると、こうした話が必ずニュースになります。
そのたびに上の世代から聞こえてくるのが「直接言えばいいのに」という声です。ただ、研究所で学生研究員と話していると、この一言こそが世代間の溝の正体だと感じます。彼らは礼儀を知らないわけでも、ただ逃げているわけでもありません。彼らなりの筋道をたどった結果として、第三者を挟むという選択に着地しています。

対面で対立した経験が、そもそも少ない

いまの新卒は、誰かと正面からぶつかる経験をほとんど積まずに社会へ出てきます。理不尽な上下関係で知られた部活動は減り、学校でも家庭でも、大人が頭ごなしに押さえつける場面は少なくなりました。SNSでは、合わない相手とは戦わずに距離を取るのが基本動作です。
気まずさを正面から引き受けて、それでも関係を続けるという訓練の総量が、上の世代と比べて圧倒的に少ない。その状態で迎える退職の申し出は、人生で最大級の対面対立になります。練習したことのない競技で、いきなり本番に立たされるようなものです。

引き止められたら断れない|辞意が消されることへの不安

学生研究員や若手社会人に話を聞くと、退職を切り出すときに怖いのは、怒られることではありません。引き止められて、流されてしまうことです。
上司に頭を下げられたり、もう少しだけ頑張ってみようと説得されたりしたとき、目上の人の言葉を断り続けられる自信がない。実際、辞意を伝えたのに面談を重ねられてうやむやにされたという体験談は、SNSにいくらでも転がっています。

退職代行は意思表示の放棄ではなく、意思を確実に通すための装置です。断れない自分を知っているからこそ、断らなくていい仕組みにお金を払っています。

関係を壊すくらいなら、第三者を挟むほうが合理的

上の世代には、世話になった人へ直接筋を通すことが誠意だという前提があります。新卒側の感覚は違います。感情的にもめる場面をつくること自体が、お互いを傷つける失礼な行為に見えている。だったら事務的に、静かに処理したほうがいい。第三者を挟むのは彼らなりの配慮でもあるのです。
両者の前提を並べると、すれ違いの構造がはっきりします。

場面 上司世代の前提 新卒側の感覚
退職の伝え方 直接言うのが筋 もめない形こそ誠意
引き止め 期待と評価の表れ 意思が消されるリスク
第三者を挟む 逃げであり非常識 感情の衝突を避ける工夫
気まずさ 乗り越えるもの 発生させないもの

LINEのブロックと地続きにある、関係の終わらせ方

彼らにとって人間関係の終了は、話し合って清算するものではなく、接続を切るものです。LINEをブロックする、アカウントをミュートする、返信をやめて自然に消える。関係をフェードアウトさせる作法が、日常の中にすでに組み込まれています。
退職代行は、この作法を労働契約に持ち込んだときの受け皿だと考えると腑に落ちます。会社はブロックできない相手です。その接続を、法に沿って代わりに切ってくれる専門家がいる。彼らの日常の延長線上では、突飛な発想ではありません。

退職代行は結果であって、原因は職場にある

企業側が読み取るべきサインはここにあります。退職代行を使われた事実を非常識と切り捨てると、本質を見誤ります。代行を挟まれたということは、辞意を直接言えない職場だったということです。
厚生労働省の調査では、大卒新入社員のおよそ3割が3年以内に離職する状態が長く続いています。退職代行は離職を増やした原因というより、以前からあった流れに新しい出口がついたものです。出口をふさいでも、中の圧力は変わりません。Z世代の仕事観の変化と併せて、構造として捉える必要があります。

研究所では、退職代行は退職の理由ではなく退職の経路にすぎない、と話しています。経路を責めても離職は減りません。変えられるのは理由のほうです。

防ぐためにできること|言い出せる関係を先につくる

代行を挟む必然性は、日頃の設計で下げられます。研究員との議論からは、次のような打ち手が見えています。

  • 辞意が固まる前から、不満を口にできる定例の1on1を持つ
  • 引き止め前提の面談をやめ、辞める選択も尊重する姿勢を明示する
  • 退職手続きの流れを明文化し、誰に何を伝えればよいかを入社時に示す
  • 直属の上司以外に相談できる、斜めの関係の窓口を用意する

若手が突然辞める職場は、たいてい突然ではありません。言えなかった時間が長かっただけです。Z世代社員とのコミュニケーションを日常から設計し直すことが、いちばんの予防になります。

若者研究所では、現役の学生研究員へのインタビューや調査を通じて、若手の採用と定着に取り組む企業を支援しています。若者リサーチの依頼お問い合わせはお気軽にどうぞ。

よくある質問

新卒が退職代行を使うのは甘えですか?

甘えというより、対面での対立経験が少ない世代が、引き止めで意思が消されることを避けるために選ぶ合理的な手段という側面があります。背景には辞意を言い出せない職場環境があることが多く、個人の資質だけでは説明できません。

退職代行を使われた企業は何を見直すべきですか?

代行を使われたこと自体より、辞意を直接言えなかった理由に目を向けることが先です。日常的に本音を話せる面談の場や、直属の上司以外に相談できる窓口があるかを点検すると、次の離職の予兆に気づきやすくなります。

新卒の退職代行利用を防ぐ方法はありますか?

完全に防ぐ方法はありませんが、辞める選択も尊重する姿勢を示し、退職手続きの流れを明文化して伝えておくと、代行を挟む必然性は下がります。不満が固まる前に聞き取る定例の1on1も予防につながります。

この記事を書いた人

石崎健人
石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。

この記事の監修者

三上広葉
三上 広葉 | 若者の研究所 所長

2025年より株式会社バイデンハウス取締役。バイデンハウスの飲料・食料、美容・コスメ、SNSのリーダーシップ。Z世代、サブカルチャー、海外トレンドへの幅広い知見を強みにZ世代マーケティングの支援を得意とする。

この記事を書いた人

石崎 健人

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。