朝8時の通学電車で、イヤホンを着けたまま画面の消えたスマホをポケットに沈めている学生を見かけます。観ていないのに、聴いている。研究所の学生研究員でも、通学やバイトの行き帰りをポッドキャストで埋める人がこの1、2年で目に見えて増えました。ショート動画を親指でさばいてきた世代が、いま映像のない音声へ戻り始めています。
Z世代のポッドキャスト利用率|10代は4割が聴いている
オトナルと朝日新聞社が2026年2月に発表した第6回ポッドキャスト国内利用実態調査によると、月に1回以上ポッドキャストを聴く人は全体で18.2%でした。これが15〜29歳にしぼると29.3%に跳ね上がり、15〜19歳では40.5%と前年から6.5ポイント伸びています。年齢が下がるほど聴取率が上がる、きれいな右肩上がりです。
ラジオ離れの世代と呼ばれてきた10代が、電波ではなくアプリ経由で、音声メディアのいちばん熱心な聴き手になっている。この逆転こそ、いまのポッドキャストをめぐる最大の見どころです。
SpotifyとYouTubeの参入|動画の王者が音声を取りにきた
この伸びはプラットフォームの投資に裏打ちされています。Spotifyは2019年にポッドキャスト制作会社のGimlet Mediaと配信ツールのAnchorを相次いで買収し、音楽アプリから音声全体のアプリへ軸足を広げました。最近は出演者の表情ごと届けるビデオポッドキャストにも力を入れています。
象徴的なのはYouTubeの動きです。2022年にアメリカでポッドキャスト専用ページを開設し、YouTube Musicでも聴けるようにしました。動画で天下を取った企業が、画面を見ない使われ方をわざわざ整備したわけです。Z世代のYouTubeの使い方がもともと作業用BGMに寄っていたことを思えば、これは順当な進化でもあります。
人気番組の顔ぶれ|仲のいい人の雑談に後ろから混ざる
日本で若い聴き手をつかんでいるのは、ニュースでも語学でもなく、知的な雑談です。
| 番組名 | 中身 | 主な実績 |
|---|---|---|
| コテンラジオ | 歴史を深掘りする鼎談 | 第1回JAPAN PODCAST AWARDS大賞とSpotify賞 |
| ゆる言語学ラジオ | 言語学を肴にした雑談 | 第3回リスナーズチョイス、第7回一般クリエイター部門大賞 |
| OVER THE SUN | ジェーン・スーと堀井美香の放談 | TBSラジオ発、第7回JAPAN PODCAST AWARDS大賞 |
共通するのは、作り込まれた台本ではなく、仲のいい2、3人の会話に後ろの席から混ざるような距離感です。1本が1時間を超える回もざらにあり、タイパを重んじるはずの世代が長尺の音声を選んでいるのは示唆的です。飛ばさず聴きたい相手を、彼らはちゃんと持っています。
なぜ動画の世代が音声へ|目が限界を迎えている
鍵は映像疲れです。授業資料も娯楽も友人との連絡も、すべてが画面の中にあります。ショート動画のフィードは一瞬の判断を延々と要求し、倍速視聴に慣れた目は休む間がありません。SNS疲れという言葉が定着したように、視覚はとうに飽和しています。
ポッドキャストはその目を解放します。画面を見なくていい。顔を出さなくていい。いいねを返さなくていい。かわいく映る必要も、既読をさばく必要もない。音声は、評価と通知から切り離された数少ないメディアです。
Z世代の音声回帰は懐古趣味ではありません。目の可処分時間を使い果たした世代が、唯一空いていた耳へ生活を引っ越させた。研究所ではそう捉えています。
ながら聴取のリアル|通学・バイト・スキンケアの隙間で
研究員に聴く場面を尋ねると、挙がるのは決まって、手は動くのに頭が空いている時間です。
- 通学の電車と徒歩。見飽きた車窓の代わりに耳で番組を進める
- 皿洗いや品出しなど、バイト中の単純作業
- 夜のスキンケアやドライヤーの時間。鏡の前は両手がふさがる
- 寝る前の暗い部屋。画面の光を浴びずにそのまま眠りに向かえる
動画は目と手を拘束しますが、音声は生活と並走できます。皿を洗いながら歴史に詳しくなれるなら、その30分は消費ではなく回収です。倍速再生で聴く研究員も珍しくなく、ながら聴きとタイパ意識は矛盾なく同居しています。
広告への示唆|声だけが届く時間を誰が取るか
マーケティングの視点で見ると、ポッドキャストは画面の奪い合いから降りた場所にある空白地帯です。ホストが自分の言葉で語る広告は、スキップ前提のバナーや動画広告と違い、番組への信頼ごと届きます。毎週同じ声を聴き続けたリスナーとの関係は、フォロワー数では測れない深さを持ちます。通学の30分、スキンケアの15分。そこに声で入り込む設計を持つ企業は日本ではまだ少数派で、だからこそ先行者の旨味が残っています。
若者研究所では、現役の学生研究員へのグループインタビューや定点調査を通じて、Z世代のメディア接触と可処分時間の使い方を深掘りしています。若者リサーチのご依頼やお問い合わせはお気軽にどうぞ。
よくある質問
Z世代のポッドキャスト利用率はどのくらいですか?
オトナルと朝日新聞社が2026年2月に発表した第6回ポッドキャスト国内利用実態調査では、月に1回以上聴く人は15〜29歳で29.3%、15〜19歳では40.5%にのぼります。全体の18.2%を大きく上回り、若い層ほど聴取率が高いのが特徴です。
Z世代はどんな場面でポッドキャストを聴いていますか?
通学の電車や徒歩、バイト中の単純作業、夜のスキンケアやドライヤー、就寝前など、手は動くのに頭は空いている時間のながら聴取が中心です。画面を見ずに済むため、ほかの行動と両立しやすいことが好まれています。
動画に慣れたZ世代がなぜ音声に向かうのですか?
ショート動画やSNSで目を酷使する生活が続き、映像疲れが背景にあります。ポッドキャストは画面を見る必要がなく、評価や通知からも切り離されているため、目を休めながら楽しめる息抜きとして選ばれています。


