深夜の勉強机で、スマホスタンドに立てた画面がずっと点いています。流れているのは、アニメ調の少女がノートを取り続けるローファイ音楽の配信。研究員のひとりはこれを、観ているのではなく点けていると表現しました。
テレビの代わりだったはずのYouTubeは、いまや聴くラジオであり、要点だけ拾う資料であり、開きっぱなしの自習室でもあります。Z世代がYouTubeを何倍速で、どんな場面で、どう観ているのか。当事者の行動に沿って見ていきます。
Z世代のYouTube利用実態|好き嫌いの手前にあるインフラ
総務省の情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査を見ると、YouTubeの利用率は10代から40代で9割を超え、LINEに次ぐ水準で定着しています。使う人と使わない人が分かれるXやInstagramと違い、YouTubeはほぼ全員が触れる土台です。
だから若者にYouTubeを観るかと尋ねても、実態には届きません。聞くべきは、どのYouTubeを観ているか。同じアプリの中に性質の異なる使い方がいくつも同居していて、SNSの使い分けがアプリ間で起きるのに対し、YouTubeでは1つのアプリの内側で使い分けが完結しているのです。
5つの視聴スタイル|同じアプリの中で別のメディアが動く
研究員たちの1日を追いかけると、YouTubeの使い方はおおむね5つに分かれます。
| スタイル | よく観るもの | 場面と観方 |
|---|---|---|
| 長尺動画 | 解説、ゲーム実況、Vlog | 食事中や休日に。ただし等速で観るとは限らない |
| ショート | おすすめに流れてくる短尺 | すき間時間に親指だけで流し見る |
| 切り抜き | 長時間配信の名場面の再編集 | 本編の代わりに要点だけ拾う |
| 作業用BGM | ローファイ、環境音、メドレー | 勉強や作業のあいだ、画面はほぼ見ない |
| ライブ配信 | ゲーム、雑談、歌枠 | リアルタイムでは追わず、後からアーカイブで消化 |
注目すべきは、この5つがほとんど別のメディアとして機能していることです。長尺はテレビ、ショートはTikTok、作業用BGMはラジオ。1つのアプリの中で複数のメディアを乗り換えながら、1日が進んでいきます。
倍速視聴と切り抜き|長い動画は圧縮してから観る
ライターの稲田豊史さんが『映画を早送りで観る人たち』で描いたとおり、早送りはもう特殊な観方ではありません。研究員たちも解説動画や実況は1.5倍から2倍が基本で、等速に戻すのは好きな人の声をじっくり聴きたいときだけだと言います。詳しくは倍速視聴の記事に譲りますが、根っこにあるのは時間の節約というより、観たいものが多すぎるという現実です。
同じ圧縮の欲求から生まれたのが切り抜き文化です。2021年にひろゆきさんが自身の配信の切り抜き動画を公認し、収益を分配する仕組みを整えて以降、数時間の配信を数分に編集した切り抜きはひとつのジャンルとして確立しました。本編を観たことがないのに、切り抜きだけでその配信者に詳しくなる視聴者は珍しくありません。
Z世代にとってYouTubeの動画は、作品である前に情報です。作品は味わうものですが、情報は処理するもの。倍速も切り抜きも、作り手への無礼ではなく、あふれる情報への合理的な対処だと研究所は見ています。
ショートと長尺の使い分け|出会いは短く、深掘りは長く
2021年に日本でも始まったYouTubeショートは、TikTokと同じ縦型の短尺ですが、担う役割は少し違います。研究員の話を聞くと、TikTokの使われ方がアプリ全体として偶然の出会いに寄っているのに対し、ショートは同じYouTube内にある長尺への入口として働く場面が目立ちます。
ショートで面白い切り口に出会い、気になったらチャンネルへ飛んで長尺を観る。逆に、長尺で好きになった配信者のショートが日々のつなぎになる。短いものと長いものが同じアプリにあるからこそ、浅い接触から深いファンへの動線が途切れずにつながるのです。
作業用BGM|観ないYouTubeという最大級の使い方
滞在時間だけで言えば、いちばん長いのは観ていない時間かもしれません。勉強中や作業中に流し続ける作業用BGMです。象徴が、ノートを取る少女のアニメーションとともにローファイ音楽を配信し続ける海外チャンネルのLofi Girlで、世界中の学生が同じ画面を点けながら夜を過ごしています。
このときのYouTubeは、ほぼ音声メディアです。画面は見ない。それでも音楽アプリではなくYouTubeが選ばれるのは、無料で、作業向けに編集された長時間のメドレーが無数にあり、コメント欄に同じ夜を過ごす誰かの書き込みが残っているからです。
ライブ配信とアーカイブ|生で観ないライブという逆説
ゲーム実況や歌枠のライブ配信も、Z世代のYouTubeを支える大きな柱です。VTuber人気の土台もこの配信文化にありますが、面白いのは、ライブをリアルタイムで観る人が思いのほか少ないことです。数時間の配信は学校やバイトと両立できないため、後からアーカイブを倍速で観る、コメントが盛り上がった場面へ飛ぶ、切り抜きで補う、といった消化の技術が発達しています。
生の一体感より、自分の生活リズムに合わせた追体験。ライブという言葉の意味そのものが、テレビ放送の時代から静かに書き換わっています。
若者研究所では、現役の学生研究員による視聴行動の観察やグループインタビューを通じて、YouTubeをはじめとする動画メディアの利用実態を企業のマーケティングや商品開発につなげています。若者リサーチのご依頼やお問い合わせはお気軽にどうぞ。
よくある質問
Z世代のYouTube利用率はどのくらいですか?
総務省の情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査では、10代から40代の利用率が9割を超え、LINEに次ぐ水準です。使う人が限られる他のSNSと違い、ほぼ全員が日常的に触れるインフラに近い存在になっています。
Z世代はなぜ動画を倍速で観るのですか?
観たい動画や配信が多すぎて、等速では追いつかないためです。動画を味わう作品ではなく処理する情報として扱う感覚が根底にあり、倍速視聴や切り抜きは作り手への無礼ではなく、あふれる情報への合理的な対処と受け止められています。
作業用BGMとしてのYouTube利用とは何ですか?
勉強や作業のあいだ、画面をほとんど見ずに音楽や環境音の動画を流し続ける使い方です。作業向けに編集された長時間のメドレーが無料で豊富にあり、コメント欄で同じ時間を過ごす人の存在を感じられることから、音楽アプリではなくYouTubeが選ばれています。


