ペットボトルは買わずに水筒を持ち歩き、服はプチプラと古着でそろえる。そんな堅実な研究員が、推しのライブには遠征費込みで数万円を迷いなく払います。若者研究所で家計の話を聞くたびに出会う、この落差。企業の方には矛盾に見えるようですが、本人たちの中では一本の筋が通っています。この筋こそ、Z世代の金銭感覚を理解する鍵です。
堅実は本当|不況と将来不安がつくったベースライン
Z世代の親の多くは、就職氷河期やリーマンショックを経験した世代です。彼ら自身も好景気の記憶がないまま、物価の上昇や年金への不安をニュースとSNSで浴びて育ちました。だからお金に対する基本姿勢はきわめて保守的です。
研究員と話していても、貯金がないと不安だという声は本当に多い。飲み会より宅飲み、コンビニよりスーパー、定価より二次流通。浪費を武勇伝として語る空気は、上の世代が思う以上に薄れています。
節約と課金が同居する構造|削る財布と注ぐ財布
ただし、すべてを我慢しているわけではありません。財布の中に削る領域と注ぐ領域がはっきり分かれていて、同じ人の中で両方が同時に動いています。
| 領域 | 財布のひも | 典型的な行動 |
|---|---|---|
| 日常の飲食 | 徹底的に削る | 水筒持参、ポイント還元で店を選ぶ |
| ファッション・コスメ | 賢く削る | プチプラ、古着、デュープで代替する |
| 推し活 | 惜しまず注ぐ | グッズ、遠征、同じCDの複数買い |
| 友人との体験 | 惜しまず注ぐ | ライブ、旅行、記念日のカフェ |
平均値で見ると見誤ります。Z世代の消費行動の全体像と同じく、金銭感覚も金額の大小ではなく配分の設計として捉える必要があります。
判断基準はひとつ|自分の物語に関係があるか
では削ると注ぐの線はどこで引かれているのか。研究員たちの話を突き詰めると、基準は価格でも品質でもなく、その出費が自分の物語に関係するかどうかに行き着きます。
推しの活動を支えたお金は、自分がその物語に参加した証になります。友人との旅行は、思い出として自分の一部になります。一方、ペットボトルの水はどれを買っても自分を語る材料にならない。だから1円でも安いほうでいいのです。
研究所でよく話題になるのは、Z世代にとってお金が交換の道具というより投票の道具になっているという感覚です。何にお金を入れたかが、自分が何者かの表明になる。だから削る領域では無個性に徹し、注ぐ領域では驚くほど大胆になります。
キャッシュレスとポイ活ネイティブ|お金は数字で最適化するもの
この金銭感覚を支えているのが、決済環境の変化です。経済産業省の発表では、日本のキャッシュレス決済比率は2024年に4割を超えました。初めてのバイト代をアプリの残高で管理し、交通系ICで買い物をして育った世代にとって、お金は紙ではなくデータです。
残高と履歴が常に見えるから、使いすぎの把握も早い。ポイ活はケチくささではなく、同じ出費から少しでも多く回収するゲーム感覚の最適化です。ポイントの二重取りや支払い手段の使い分けを、面倒がらずにむしろ楽しみます。
投資への距離感|NISAが選択肢に入った最初の世代
2022年度からは高校の家庭科で資産形成が扱われるようになり、2024年には新NISAが始まりました。投資はギャンブルだという上の世代の感覚は薄く、貯金だけではお金が増えないという前提を、社会に出る前から知っています。
ただしその中身は一攫千金ではなく、少額の積立が中心です。推しへの課金と同じ財布から出ているように見えて、位置づけは正反対。投資は削る側の延長にある、将来不安への備えです。
安いから買うが通じない理由|価格設定への示唆
この構造を踏まえると、値下げやセールがZ世代に響きにくい理由が見えてきます。安さで勝負するかぎり、削る領域の中で最安の椅子を奪い合うことにしかなりません。しかも削る領域では、ブランドへの愛着は生まれにくい。
考えるべきは、自社の商品を注ぐ領域に移す設計です。
- 応援の実感が持てる仕組み。売上の行き先や作り手の顔が見える
- 体験として記憶に残る。買う過程そのものが語れる出来事になる
- 限定性より意味性。なぜ自分が買うのかを説明できる理由がある
価格を下げて選ばれるより、多少高くても意味で選ばれる。Z世代の消費行動を前提にした価格戦略は、この転換から始まります。
若者研究所では、現役の学生研究員によるグループインタビューや定点調査を通じて、価格戦略や商品開発の意思決定を支援しています。若者リサーチのご依頼やお問い合わせはお気軽にどうぞ。
よくある質問
Z世代の金銭感覚にはどんな特徴がありますか?
日常の出費は徹底して抑える堅実さと、推し活や友人との体験には惜しまず使う大胆さが同居しています。金額の大小ではなく、その出費が自分にとって意味を持つかどうかで財布を切り替えるのが特徴です。
Z世代はなぜ節約志向が強いのですか?
好景気の記憶がなく、物価上昇や将来への不安を身近に感じながら育ったためです。親世代が経験した就職氷河期やリーマンショックの影響もあり、貯金がないと不安だという感覚が広く共有されています。
Z世代は投資に積極的ですか?
高校の家庭科で資産形成を学び、新NISAが身近にある世代のため、投資への心理的な抵抗は上の世代より小さいといえます。ただし中身は一攫千金ではなく少額の積立が中心で、将来不安への堅実な備えという位置づけです。


