「最近の若者はすぐ辞める」という嘆きと、「安定した会社で働きたい」という学生の声。矛盾しているようで、どちらもZ世代の本音です。会社を信じていないのに、会社に安定を求める。この一見ねじれた仕事観を解きほぐすことが、若手の採用にもマネジメントにも効いてきます。
Z世代の仕事観の全体像|安定志向とやりがい志向は同居する
就職活動中の学生研究員に話を聞くと、企業選びの軸としてまず出てくるのは安定です。福利厚生、離職率、残業時間。堅実というより、慎重。
ところが同じ学生が、数分後には「成長できない環境にいるのが一番怖い」と話します。安定が欲しいのに、ぬるま湯は嫌。この同居がZ世代の仕事観の骨格です。
鍵は、安定という言葉の中身が変わったことにあります。上の世代にとっての安定は、会社が定年まで守ってくれることでした。Z世代にとっての安定は、この会社がなくなっても自分は食べていけるという状態を指します。だから守られるだけの環境はむしろ不安で、スキルが身につかない仕事は安定を脅かすものとして避けられます。Z世代の特徴を踏まえると、この感覚は仕事の場面に限らず一貫しています。
研究所でよく出てくる言い方を借りれば、Z世代が欲しいのは会社という船の安全ではなく、自分の泳力です。大きな船が沈んでいく場面を、彼らはニュースで何度も見てきました。
「会社に尽くせば報われる」が通じない理由|Z世代が見てきた時代背景
Z世代は物心ついたときから低成長の日本しか知りません。親世代には就職氷河期やリーマンショックで苦労した人が多く、会社は守ってくれないという現実を家庭の中で先に学んでいます。
決定打は2019年でした。終身雇用を維持するのは難しいと経済界のトップが相次いで公言し、大企業の早期退職募集のニュースが続いた。彼らが中高生から大学生の頃の出来事です。
つまり、忠誠と引き換えに雇用を保障するという昭和型の取引は、Z世代が入社する前に売り手側から破棄されています。尽くしても報われる保証がないなら、尽くし方を調整するのは当然の反応です。
| 前提 | 上の世代が見ていた景色 | Z世代が見ている景色 |
|---|---|---|
| 雇用 | 終身雇用が標準 | 終身雇用は難しいと経営側が公言済み |
| キャリア | 一社で昇進していく一本道 | 転職も副業も含む選択肢の束 |
| 情報 | 社内の先輩がほぼ唯一の情報源 | SNSと口コミサイトで他社の実態まで見える |
| 会社との関係 | 守ってもらう代わりに尽くす | 対等な契約で、合わなければ移る |
退職理由の本音|静かな退職と退職代行が生まれた文脈
厚生労働省の調査では、大卒新入社員のおよそ3人に1人が3年以内に離職しています。実はこの割合、何十年も大きくは変わっていません。変わったのは辞め方と、その語られ方です。
アメリカのSNS発で広まった静かな退職は、辞表を出さずに必要最低限だけ働くという選択でした。日本では退職代行サービスの利用が話題になります。どちらにも共通するのは、正面からの交渉を避けたい心理です。
研究員のOBやOGに退職理由の本音を聞くと、給与への不満よりも、ここにいても成長できないという焦りと、聞いていた話と入社後の現実のギャップが目立ちます。それを上司に率直に伝えれば、引き止めの説得が始まる。だから黙って離脱するか、代行に任せるわけです。彼らにとって退職は裏切りではなく、キャリアを編集する作業のひとつになっています。
就活を終えたばかりの研究員に、企業選びで何を聞いて回ったのかを尋ねたことがあります。
「OB訪問では全員に『何時に帰れますか』と聞きました。でも本音で答えてくれた人はほとんどいなくて、逆にそれで会社を判断しました」。取り繕った回答そのものが、判断材料になっているのです。
若者は条件だけでなく「正直に話してくれるかどうか」を見ています。採用広報が飾れば飾るほど逆効果になる理由が、この一言に詰まっていると思います。
出世したくないは怠惰ではない|昇進を避ける合理性
管理職になりたがらない若手の話は、人事の定番の悩みになりました。ただ、若手の側から見える景色は明快です。目の前にいる中間管理職は、会議と調整に追われ、部下の責任を背負い、残業代が消え、それでいて報酬の上がり幅は小さい。
魅力的に見えないものを目指さないのは、覇気の問題ではなく計算の結果です。
加えて、プレーヤーとして専門性を磨くほうが転職市場で評価されやすいという読みもあります。社内の階段を登るより、市場での自分の値段を上げる。管理職というポストの中身を再設計しないまま若手の意欲だけを嘆いても、話は動きません。
働く場所と時間|柔軟性は福利厚生ではなく前提条件
コロナ禍のオンライン授業で大学生活を送った世代にとって、場所に縛られない働き方は特別な恩恵ではなく標準装備です。リモートワーク可という条件は加点要素というより、ないと減点される基礎点に近いものになっています。
誤解されがちですが、出社そのものを嫌っているわけではありません。研究員と話していても、対面のほうが早い場面があることは彼ら自身がよく分かっています。嫌われているのは、理由の説明がない出社です。全員が毎日いる必要はあるのか。この会議を対面でやる意味は何か。問いに答えが用意されていれば、素直に出てきます。
叱られ慣れていないは本当か|フィードバックの受け取り方
叱られた経験が少ないまま社会に出る、という指摘には事実の面があります。学校でも部活でも、怒鳴る指導は彼らが育つ過程で急速に姿を消しました。ただ、そこから打たれ弱いと結論づけるのは早計です。
学生研究員と話していて感じるのは、彼らが嫌うのは指摘ではなく、基準の見えない減点だということです。何が評価されて何が減点なのかが先に共有されていれば、厳しいフィードバックはむしろ歓迎されます。飢えていると言ってもいいほどです。
受け取ってもらえない指摘には共通点があります。人格に踏み込む。基準を後出しにする。人前でやる。この3つを避け、行動に絞った具体的な指摘を高い頻度で返すだけで、反応は見違えます。
飲み会は嫌いではない|社内コミュニケーションの距離感
若者の飲み会離れと言われますが、実態は少し違います。嫌われているのは強制参加の飲み会と、上司の独演会です。気の合うメンバーとの飲みは普通に楽しんでいて、むしろ席次や注文のタイミングまで含めた飲み会での気配りは、上の世代が思う以上に繊細です。
一次会で帰るのも、失礼ではなく設計です。楽しかったという記憶のまま切り上げて、翌日に持ち越さない。職場の人間関係を拒んでいるのではなく、心地よい距離で長持ちさせようとしていると読むほうが実態に近いはずです。
スキマバイトと副業観|働き方を試着する世代
タイミーに代表されるスキマバイトの浸透は、学生の労働観を静かに変えました。バイトはシフトに縛られるものから、空き時間に選ぶものへ。
面白いのは、彼らがこれを単なる小遣い稼ぎで終わらせていないことです。短時間でいろいろな職場に入る経験が、業界や職場の下見として機能している。働き始める前に働き方を試着できる世代は、歴史上初めてかもしれません。
副業への感覚も同じ線上にあります。ひとつの収入源に人生を預けないというリスク分散であり、本業では試せない自分を試す実験場でもあります。副業禁止の会社が敬遠されるのは、収入の問題というより、選択肢を奪われることへの抵抗です。
就活のいま|情報の海で自分を疑う学生たち
いまの就活は情報戦です。口コミサイトで社員の本音を読み、SNSで選考の体験談を集め、エントリーシートの下書きに生成AIを使う。上の世代よりはるかに多くの情報を持って意思決定しています。
ただ、情報が増えるほど不安も増えます。よい条件の裏を疑い、内定が出ても自分の選択に確信が持てない。就活生のAIへの不安に表れているように、AIに仕事を奪われる時代に何を学びどんな職に就くべきかという、上の世代にはなかった問いも抱えています。
配属ガチャという言葉の流行が象徴するのは、入社後の不確実性への敏感さです。どこに配属されるか分からないまま入社を決めることが、彼らには大きな賭けに見えています。
Z世代の力を引き出すマネジメント|信頼の設計図
ここまでの仕事観を踏まえると、打ち手はシンプルに整理できます。
- 仕事の意味を言語化する。この作業が何につながるのかを、面倒でも毎回言葉にする
- 評価基準を先に共有する。基準の後出しが最も信頼を削る
- フィードバックは高頻度で軽く。年1回の重い査定より週1回の短い対話
- 裁量と期限をセットで渡す。丸投げでも監視でもなく
- 辞めた人を悪く言わない。退職者への態度を、残っている若手は一番よく見ている
どれも新しい制度は要りません。必要なのは、会社と若手の関係を上下ではなく対等な契約として扱う姿勢です。信頼は福利厚生では買えず、日々の説明の積み重ねでしか貯まりません。
採用広報がやりがちな失敗|等身大に勝る戦略はない
採用の入口でつまずくパターンには型があります。
- キラキラした社員インタビューだけを並べる。演出は見抜かれ、ネガティブ情報の不在はかえって不信を招く
- アットホームな職場という定型句に頼る。情報量ゼロの言葉として読み飛ばされる
- 若者言葉を無理に使う。媚びを検知するセンサーの精度は驚くほど高い
- 制度の紹介だけで運用実態を見せない。制度はあるが使えない職場を、彼らは最も警戒する
共通する処方箋は等身大です。よいところも大変なところも具体的に見せる会社が、結局は信頼を得ます。取り繕った広報は、入社後のギャップという形で退職理由に化けるだけです。
若者研究所では、100人以上の現役学生研究員へのインタビューや定点調査を通じて、Z世代の仕事観や就活動向を企業の採用・組織づくりに活かすお手伝いをしています。若者リサーチのご依頼やお問い合わせはお気軽にどうぞ。
よくある質問
Z世代の仕事観の特徴は何ですか?
安定志向とやりがい志向が同居している点です。会社に生活を保障してもらう安定ではなく、どこでも通用する力を身につけられる環境を安定と捉え、仕事には給与だけでなく意味や成長実感を求める傾向があります。
Z世代の若手社員がすぐ辞めてしまうのはなぜですか?
厚生労働省の調査では大卒新入社員のおよそ3人に1人が3年以内に離職しており、この割合自体は何十年も大きく変わっていません。理由として目立つのは成長実感の欠如と入社前後のギャップで、転職が当たり前の世代にとって退職は裏切りではなくキャリアの選択肢のひとつです。
Z世代は本当に出世したくないのですか?
意欲がないわけではなく、責任や労働時間が増えるわりに報酬や魅力が釣り合わないと感じているためです。管理職の役割や待遇を再設計し、目指す意味を示せれば挑戦する若手は少なくありません。
Z世代の部下とうまく向き合うにはどうすればよいですか?
仕事の意味を言葉で伝えること、評価基準を先に共有すること、フィードバックを高頻度かつ具体的に行うことが有効です。人格ではなく行動に焦点を当てた指摘であれば、厳しい内容でも受け止められます。


