東南アジアのZ世代。若い人口とモバイルファーストが生む消費力

平日の夜9時、ジャカルタ。スマホの画面の中では、若い配信者がプチプラの口紅を腕に塗って見せながら、視聴者のコメントに次々と答えています。画面下のカゴのマークを押せば、購入まで数タップ。東南アジアのZ世代にとって、これはセール期間だけの特別な光景ではなく、いつもの夜の過ごし方です。買い物とSNSと娯楽の境目が、この地域には最初からありません。

東南アジアのZ世代とは|人口の4分の1を占める市場の主役

ASEAN10か国の人口はあわせて7億人近く、なにより若さが際立ちます。国連の人口推計をもとにした統計では、日本の中位年齢が49歳前後なのに対し、フィリピンは26歳、域内全体でも31歳ほど。人口ピラミッドの形が根本から違うのです。
博報堂生活総研アセアンは、1997年から2012年生まれのZ世代がASEAN人口の約24%を占めると推計しています。およそ4人に1人がZ世代。日本のように、少なくなった若者にどう振り向いてもらうかを悩む市場ではなく、Z世代こそが人口のボリュームゾーンです。海外のZ世代を語るうえで、この地域を外すことはできません。

モバイルファースト|PCを飛ばしてスマホから始まったネット生活

東南アジアのデジタル環境を理解する鍵は、この地域の若者の多くにとって、人生最初のインターネット端末がスマホだったという事実です。家庭に固定回線とパソコンが普及する段階を飛ばして、手頃なAndroid端末と安いモバイル通信がいきなり行き渡りました。
だからパソコンの作法を経由していません。検索よりアプリ、メールよりチャット。配車から送金までこなすシンガポール発のGrabや、インドネシアのGojekのようなスーパーアプリが、移動も食事も支払いも一つの画面で完結させます。海外のSNS事情と見比べても、生活のアプリ依存度は世界有数です。

ShopeeとTikTok Shop|買い物がライブ配信の娯楽になる

ECの主役は、シンガポールに本社を置くShopeeとLazada、そこに割って入ったTikTok Shopです。目を引くのはライブコマースの存在感で、GoogleとTemasek、ベイン・アンド・カンパニーの共同調査e-Conomy SEA 2024によれば、域内デジタル経済の流通総額は2,630億ドルに達し、動画経由のコマースだけでEC全体の2割を占めるまでになりました。
9月9日や11月11日のようなゾロ目セールの夜には、配信を眺めながら深夜までカゴに商品を入れ続けます。ライブコマース発祥の地である中国のZ世代の消費文化が、東南アジアで独自に花開いた形です。インドネシア政府が2023年にSNSアプリ内での物販を規制し、TikTokが現地EC大手トコペディアと組んで再開にこぎつけた一件は、この市場の大きさを逆に証明しました。

日本のZ世代はSNSを失敗しないための下調べに使い、東南アジアのZ世代はSNSの中でそのまま買います。買い物は比較検討の作業ではなく、配信者と過ごす夜の娯楽。研究所はここに両者の最大の違いを見ています。

日本のZ世代との違い|前のめりの消費と慎重な消費

項目 東南アジアのZ世代 日本のZ世代
人口の中の立ち位置 約4人に1人。市場の主役 少子化で人数が少ない
デジタルの入口 最初の1台がスマホ 家庭のPCやガラケーを経てスマホへ
買い物の主戦場 アプリ内。ライブコマースが日常 店舗とECの併用。SNSは下調べ役
消費の温度 所得の伸びを背景に前のめり 失敗を避けるメリハリ消費

この違いの背景にあるのは経済の勢いです。可処分所得が年々増えていく実感の中で育てば、消費は自然と前のめりになります。買って試して、外れたら次へ。日本の若者が身につけた失敗回避の買い物術とは、前提となる景色が違います。
ただし域内の格差は大きく、シンガポールの大学生とフィリピンの地方の若者を同じZ世代とひとくくりにはできません。国よりも都市、都市よりも所得層で見る解像度が求められます。

アニメとコスメ|日本カルチャーが入口になる親日市場

日本企業にとっての追い風は、日本のカルチャーが若者の日常に深く入り込んでいることです。ドラえもんやONE PIECEを見て育った世代が親になり、いまの10代は配信サービスでアニメの新作を日本とほぼ同時に追いかけます。ジャカルタやバンコクでは数万人規模のアニメイベントが開かれ、日本のコスメやスキンケアはドラッグストアの棚の目立つ場所を占めます。ドン・キホーテや無印良品の東南アジア出店が続くのも、この土壌があるからです。
そしてこの熱は、日本への旅行熱にもつながっています。訪日する海外Z世代の中でも、東南アジアの若者はリピーターへの育ちしろが大きい層です。ただ、憧れの解像度が高いぶん、型通りの日本紹介では響かない相手でもあります。現地の若者が日本の何を愛しているのかを知ることが、進出の最初の一歩になります。

若者研究所では、現役の学生研究員による調査と海外の若者トレンドの構造分析を通じて、アジア市場に向き合う企業のマーケティングや商品開発を支援しています。東南アジア進出に向けた若者リサーチのご依頼お問い合わせはお気軽にどうぞ。

よくある質問

東南アジアのZ世代は人口のどれくらいを占めますか?

博報堂生活総研アセアンの推計では、1997年から2012年生まれのZ世代がASEAN人口の約24%を占めます。ASEAN全体の人口は7億人近く、およそ4人に1人が若者という、日本とは逆の人口構成になっています。

東南アジアでライブコマースが盛んなのはなぜですか?

若者の多くがパソコンを経ずにスマホからインターネットを使い始めたため、アプリ内で動画を見ながらそのまま買う行動に抵抗がないことが大きな理由です。GoogleとTemasekなどの共同調査では、動画経由の販売がEC流通額の約2割を占めるとされています。

日本企業が東南アジアのZ世代に売り込むうえで強みはありますか?

アニメやゲームといった日本コンテンツへの親しみと、日本のコスメや日用品への信頼が入口になります。ただし日本への憧れの解像度が高い層なので、型通りの日本らしさの押し出しではなく、現地の生活文脈に合わせた発信が欠かせません。

この記事を書いた人

石崎健人
石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。

この記事の監修者

三上広葉
三上 広葉 | 若者の研究所 所長

2025年より株式会社バイデンハウス取締役。バイデンハウスの飲料・食料、美容・コスメ、SNSのリーダーシップ。Z世代、サブカルチャー、海外トレンドへの幅広い知見を強みにZ世代マーケティングの支援を得意とする。

この記事を書いた人

石崎 健人

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。