中国のZ世代(00后)の消費。国潮ブームと寝そべり族が同居する理由

上海の地下鉄で若者の足元を眺めると、ナイキやアディダスに混ざって、漢字のロゴを大きくあしらった李寧のスニーカーが目につきます。10年前の中国で、国産スポーツブランドは安いから選ぶものでした。それがいまや、胸を張って履くファッションです。ところが同じ世代の中から、競争そのものを降りて横になろうという寝そべり族も生まれました。熱い愛国消費と冷めた脱競争。この2つが平然と同居しているのが、00后と呼ばれる中国のZ世代です。

00后とは|生まれ年の下2桁で区切る中国の世代のものさし

中国では世代を生まれた年代で呼び分けます。1980年代生まれは80后、1990年代生まれは90后、そして2000年代生まれが00后。リンリンホウと読み、日本や欧米で言うZ世代にほぼ重なります。
00后は、経済成長を続ける豊かな中国しか知らずに育った最初の世代です。一人っ子政策の時代に生まれ、両親と4人の祖父母から注がれる6つの財布に囲まれて育ちました。スマホ決済と短尺動画が空気のようにある環境で消費を覚えた点は海外のZ世代と共通しますが、外国ブランドへの憧れが薄いという一点で、上の世代とも他国の同世代とも決定的に違います。

国潮ブーム|ニューヨークの李寧から火がついた国産回帰

転機としてよく語られるのが2018年2月のニューヨーク・ファッションウィークです。スポーツブランドの李寧が、中国李寧の4文字を掲げたコレクションを発表し、ダサい国産の代名詞だったブランドが一夜で誇りの象徴に変わりました。故宮博物院が監修する口紅や文具のヒットも続き、伝統文化と国のモチーフは、いま中国で最も鮮度の高いデザイン素材になっています。
この国産回帰の流れが国潮です。読みはグオチャオ。百度が人民網研究院とまとめた2021年のレポートによれば、国潮に関する検索量は10年で5倍以上に伸び、その中心にいるのが90后と00后でした。2021年の河南省の水害では、経営難のなかで多額の寄付を発表した国産スポーツブランドの鴻星爾克に注文が殺到し、野性消費という流行語まで生まれています。

躺平|寝そべりこそ正義と書き込んだ若者たち

同じ2021年の春、百度の掲示板に、寝そべりこそ正義だと題した投稿が現れます。働くのは年に1、2か月だけ、あとは低消費で横になって暮らすという宣言は瞬く間に拡散し、躺平、タンピンという言葉が流行語になりました。官製メディアは若者を諭す論説を相次いで載せましたが、共感の火は消えていません。
背景にあるのは競争の過酷さです。大学入試の高考は2024年に受験者が1300万人を超え、勝ち抜いた先にも、際限のない消耗戦を意味する内巻や、朝9時から夜9時まで週6日働く996が待ち構えます。国家統計局が発表した16歳から24歳の都市部失業率は2023年6月に21.3%と過去最高を記録し、直後に公表方法の見直しで一時発表が止まりました。努力の出口が見えないなら、せめて降り方は自分で選ぶ。躺平はそういう静かな意思表示です。

国潮と寝そべりは矛盾しない|2つを貫く納得の感覚

項目 国潮ブーム 躺平
表に見える姿 国産ブランドと伝統文化への熱狂 競争と消費からの離脱
象徴的な出来事 2018年の中国李寧コレクション 2021年の寝そべりこそ正義の投稿
向けられる相手 割高な外国ブランドのロゴ代 割に合わない競争のコスト
根っこの感覚 納得できるものにだけ払う 納得できない努力はしない

愛国の熱狂と脱力の寝そべりは、正反対に見えて根っこがつながっています。中国のZ世代には、有名ブランドと同等の品質を持つ手頃な代替品を選ぶ平替という買い方も定着していますが、国潮も平替も、ブランドの看板ではなく中身と価格の釣り合いを自分の目で査定する態度は同じです。

国潮は愛国心が先にあるのではなく、割高なロゴ代をもう払わないという納得の消費。躺平は怠惰ではなく、割に合わない努力を買わないという納得のストライキ。研究所では、この2つを同じ査定感覚の表と裏だと捉えています。

降りる若者は中国だけではない|日韓との重なり

競争の激しさが生む脱力は東アジアに共通しています。恋愛や結婚を諦める韓国のN放世代は躺平とよく似た文脈から生まれましたし、日本にもさとり世代という言葉がありました。韓国のMZ世代が公正さに敏感なように、中国の00后は納得に敏感で、日本の若者は失敗しないことに敏感です。同じ低成長の圧力への、3つの違う応答だと並べてみると、それぞれの輪郭がはっきりします。日本のZ世代との違いを考えるうえでも、中国は格好の鏡になります。

日本企業への示唆|愛国消費という言葉で思考停止しない

国潮を単純な排外主義と読むと市場を見誤ります。実際にはユニクロや無印良品のように中国の若者に定着した日本ブランドもあり、選別の基準はどこの国かではなく、価格に見合う品質と物語があるかどうかです。裏を返せば、知名度を頼りに割高で売る戦い方はもう通用しません。海外の人気ブランドの顔ぶれが物語るとおり、審査員の目は世界中で厳しくなっています。00后の財布は閉じているのではなく、納得という鍵がかかっているだけです。

若者研究所では、現役の学生研究員による調査と海外の世代動向の分析をもとに、中国市場に向き合う企業のマーケティングと商品開発を支援しています。若者リサーチのご依頼お問い合わせはお気軽にどうぞ。

よくある質問

中国のZ世代はなぜ00后と呼ばれるのですか?

中国では生まれた年代の下2桁で世代を呼ぶ習慣があり、1980年代生まれは80后、1990年代生まれは90后、2000年代生まれは00后と呼ばれます。読みはリンリンホウで、日本や欧米でいうZ世代にほぼ重なる区分です。

国潮とはどんな意味ですか?

国潮はグオチャオと読み、中国の伝統文化や国産ブランドを取り入れた商品やデザインを好む消費の流れを指します。2018年にスポーツブランドの李寧がニューヨーク・ファッションウィークで漢字ロゴのコレクションを発表したことが、ブームの転機として広く知られています。

寝そべり族(躺平)とは何ですか?

躺平はタンピンと読み、過酷な受験競争や長時間労働から距離を置き、消費や出世への欲を減らして暮らす生き方を指します。2021年に中国の掲示板へ投稿された、寝そべりこそ正義だと題する文章から広まり、若者の共感を集めました。

この記事を書いた人

石崎健人
石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。

この記事の監修者

三上広葉
三上 広葉 | 若者の研究所 所長

2025年より株式会社バイデンハウス取締役。バイデンハウスの飲料・食料、美容・コスメ、SNSのリーダーシップ。Z世代、サブカルチャー、海外トレンドへの幅広い知見を強みにZ世代マーケティングの支援を得意とする。

この記事を書いた人

石崎 健人

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。