2018年8月、ストックホルムのスウェーデン議会前。夏休み明けの金曜日に、15歳の少女がひとり、気候のための学校ストライキと手書きした板を壁に立てかけて座り込みました。グレタ・トゥーンベリ。この小さな座り込みが、のちに世界150か国以上へ広がる運動の始まりになると気づいた人は、当時ほとんどいません。ヨーロッパのZ世代を理解する入口は、この一枚の板にあります。
学校ストライキ|ひとりの座り込みが数百万人のデモになった
グレタの抗議は金曜日ごとに続き、Fridays For Futureという名前で国境を越えました。2019年9月の世界一斉気候ストライキには、主催者発表で数百万人が参加。ベルリンやロンドンの目抜き通りを、制服姿の中高生が埋め尽くしました。
見逃せないのは、参加した本人たちにとってデモが特別な政治行動ではなかったことです。友達と誘い合わせ、プラカードを自作し、帰りにその写真をInstagramに上げる。ヨーロッパの多くの都市で、気候デモは放課後の延長線上にある日常の風景になりました。
デモと選挙と買い物が地続き|消費は投票である
この世代が投票年齢に達すると、政治の地図も動きます。2019年の欧州議会選挙では気候変動が最大の争点となり、ドイツでは若年層の支持を集めた緑の党が大きく躍進しました。デモで声を上げ、選挙で投票し、日々の買い物でも意思表示をする。海外のZ世代の中でも、ヨーロッパの若者はこの三つをひとつながりの行動として扱います。
企業への視線も同じ線上にあります。環境負荷の高いブランドは買わない。労働搾取が報じられたファストファッションからは離れる。彼らにとって不買は過激な抗議ではなく、投票用紙の一枚にすぎません。
古着はおしゃれの標準装備|ビリニュス発Vintedの衝撃
価値観の変化を最もよく映すのが古着です。リトアニアの首都ビリニュスで2008年に生まれた古着売買アプリVintedは、登録者1億人を超えるヨーロッパ最大級のマーケットプレイスへ成長し、同国初のユニコーン企業になりました。フランスやドイツでは、服が欲しくなったらまずVintedを開くという若者が珍しくありません。
注目すべきは動機の順番です。安いから古着なのではなく、新品を買い続けるファッションのあり方そのものへの違和感が先にある。ヴィンテージを掘り当てる目利きは称賛の対象で、古着はむしろおしゃれ上級者の証になっています。
飛び恥|移動手段まで価値観の表明になる
スウェーデンでは2018年ごろから、flygskam、日本語で飛び恥と訳される言葉が広がりました。環境負荷の大きい飛行機に乗ることを恥じる感覚で、対になる言葉として、列車の旅を誇るtågskryt、列車自慢まで生まれています。空港運営会社スウェダヴィアの発表では、2019年のスウェーデン国内線の旅客数は前年から約9%減少。グレタが国連の気候サミットに出席するため、飛行機を拒んでヨットで大西洋を渡ったのも同じ年でした。
この空気はヨーロッパ全体で夜行列車の復権につながり、オーストリア連邦鉄道の夜行列車ナイトジェットは路線網を広げ続けています。どこへ行くかだけでなく、どうやって行くかまでが自己紹介になる。それがヨーロッパのZ世代の感覚です。
日本のZ世代との温度差|行動は似て、動機が違う
| 項目 | ヨーロッパのZ世代 | 日本のZ世代 |
|---|---|---|
| 気候デモ | 放課後の延長にある日常の行動 | 参加のハードルが高く少数にとどまる |
| 古着を着る動機 | 大量生産への違和感という思想が先 | 節約と一点物のおしゃれが先 |
| 企業への意思表示 | 不買と抗議で直接伝える | 静かに離れる、SNSで冷める |
| サステナの語り方 | 政治の言葉で堂々と語る | 意識高いと見られることを避ける |
行動だけを見れば、日本の若者もフリマアプリで服を売り買いし、マイボトルを持ち歩きます。ただ、動機の構造が違います。日本のエシカル消費は財布と両立する範囲での静かな実践で、政治の色を帯びることをむしろ注意深く避けます。デモに行くことが友情の証になるベルリンと、意識高い系と呼ばれないよう言葉を選ぶ東京。同じ世代の同じ行動が、まったく違う社会的意味を背負っているのです。
ヨーロッパの若者にとって消費は投票であり、日本の若者にとって消費は防衛である。研究所では、この一文で両者の温度差を説明しています。
企業がヨーロッパのZ世代から読み取るべきこと
ヨーロッパで先に進んだ変化は、時間差で日本にも入ってきました。古着アプリの浸透はすでに追いつき、サステナビリティを掲げる海外の人気ブランドへの支持も高まっています。ただし輸入の仕方には注意が要ります。
- 正義を前面に出す欧州流の訴求は、日本ではお説教として弾かれやすい
- やってる感だけのサステナ訴求は、どちらの市場でもグリーンウォッシュとして信頼ごと失う
- 思想は共有されても、語り口は国ごとに翻訳が必要になる
ヨーロッパの最前線を知ることは、日本との違いを測る物差しを持つことでもあります。3年後の東京の若者を知りたければ、今日のベルリンとパリの路上を見ておく価値があります。
若者研究所では、現役の学生研究員へのグループインタビューや定点調査を通じて、海外のトレンドが日本の若者にどう翻訳されて届くのかを追いかけています。若者リサーチのご依頼やお問い合わせはお気軽にどうぞ。
よくある質問
飛び恥とはどういう意味ですか?
スウェーデン語のflygskamの訳語で、環境負荷の大きい飛行機に乗ることを恥ずかしいと感じる感覚を指します。2018年ごろからヨーロッパで広がり、列車での移動を選び直す動きや夜行列車の復権につながりました。
Fridays For Futureとは何ですか?
グレタ・トゥーンベリさんが2018年に始めた学校ストライキから広がった、気候変動対策を求める若者主体の国際的な運動です。金曜日に学校を休んでデモや集会を行うスタイルが特徴で、世界各国に広がっています。
ヨーロッパのZ世代はなぜ古着を好むのですか?
節約のためだけでなく、大量生産と大量廃棄を続けるファッション産業への問題意識が根底にあります。Vintedのような古着売買アプリが生活に浸透し、古着を選ぶことがセンスの良さの表現にもなっています。


