訪日Z世代インバウンドの実像。TikTokで見た日本を答え合わせする旅

平日の昼下がり、江ノ島電鉄の鎌倉高校前駅。小さな踏切の前に、スーツケースを引いた海外の若者たちがスマホを構えて並んでいます。目当ては大仏でも神社でもなく、アニメのSLAM DUNKのオープニングに登場するあの踏切です。電車が通り過ぎる数秒を撮るために、彼らは半日をかけて移動してくる。いま日本を訪れる海外Z世代の旅は、私たちが思い浮かべる観光とはずいぶん違う形をしています。

過去最高の訪日ラッシュ|4,268万人が日本に来た年

日本政府観光局の発表では、2025年の訪日外国人旅行者数はおよそ4,268万人。初めて4,000万人を突破し、過去最高を更新しました。観光庁のインバウンド消費動向調査でも、2025年の旅行消費額は9兆4,559億円と過去最高です。
この波を押し上げた条件のひとつが歴史的な円安です。学生や働きはじめたばかりの世代にとっても、日本は手が届く旅行先になりました。かつて日本旅行はお金のかかる特別な体験でしたが、いまでは卒業旅行や連休の行き先として気軽に選ばれています。

旅はTikTokから始まる|ガイドブックの代わりに保存フォルダ

海外Z世代の旅の設計図は、ガイドブックではありません。TikTokやInstagramで流れてきた動画を保存し、その場所を地図アプリにピン留めして旅程を組み立てます。頼りにするのは公式の観光情報より、自分と同世代の旅行者が投稿した数十秒の動画です。
この行動の新しさは、行き先が有名かどうかではなく、動画として面白いかどうかで選ばれる点にあります。ガイドブックに載らない住宅街の踏切や、コンビニのたまごサンドが、寺社仏閣と同じ土俵で旅の目的地になる。この選ばれ方は、海外のSNS事情を知らないと読み解けません。

彼らはどこへ向かうのか|聖地巡礼からドンキ、ガチャガチャまで

海外の若者を実際に惹きつけている場所と体験を並べると、共通の構造が見えてきます。

行き先・体験 惹かれている中身
鎌倉高校前の踏切 アニメで何度も見た風景に自分が立つ、聖地巡礼の代表格
原宿・竹下通り プリクラと古着。日本の若者文化を身にまとって撮影できる街
ドン・キホーテ スナック菓子や化粧品の爆買い。買った山を開封する動画まで含めて旅の記録になる
抹茶 茶筅で点てる所作そのものが体験になり、鮮やかな緑が画面で映える
ガチャガチャ 数百円で回せる運試し。カプセルを開ける瞬間が短い動画に収まる

ドン・キホーテの免税レジに並ぶ籠の中身は、高級ブランド品ではなくお菓子や日用品です。単価の安いものを大量に買い、ホテルで開封して見せるところまでが旅の一部になっています。この買い方の背景はドンキ人気の分析で詳しく扱いました。抹茶ブームも同じ構造で、買って終わりではなく、自分で点てる体験と撮影がセットです。

共通項は再現と共有|答え合わせとしての旅

聖地の踏切も、プリクラも、ガチャガチャも、貫いているのは同じ流れです。画面で見たものを現地で再現し、撮影して共有する。旅の目的が、見ることから撮って見せることへ移っています。

海外Z世代は日本を観光しに来ているのではなく、SNSで予習した日本を答え合わせしに来ている。研究所ではそう捉えています。彼らの目的地リストは名所の一覧ではなく、おすすめフィードの中にあります。

そして答え合わせの動画は、次の誰かの予習になります。訪日した若者の投稿が、まだ来ていない若者を呼ぶ。広告費のかかっていない巨大な循環が、国境の外で勝手に回り続けているわけです。

円安の先にあるもの|安いから来る、では続かない

円安は間違いなく追い風です。ただ、為替はいつか戻りますし、安さだけを理由に選ばれた旅行先は、より安い国が現れた瞬間に乗り換えられます。
それでも悲観する必要はありません。彼らが撮りたいものの多くは、日本でしか撮れないからです。アニメの実在の風景、プリクラの機械、街角のガチャガチャの密度。こうした固有のコンテンツは、為替と関係なく効き続けます。海外のZ世代の価値観を踏まえると、価格の勝負から体験の勝負へ軸足を移せるかどうかが、リピートを生む分かれ目になります。

観光・小売企業ができること|偶然のバズを待たない

若年インバウンドと向き合う企業に必要なのは、バズを祈ることではなく、撮られる前提の設計です。

  • 商品や売り場を、数十秒の動画に収まる単位で設計する。開封する、点てる、回すといった動きのある瞬間をつくる
  • 公式の発信より、訪日客自身の投稿が広告になる。撮影しやすく、位置情報を載せたくなる場所を用意する
  • 爆買いの中身を追う。籠に入っているスナックの銘柄は、海外の若者インサイトの一次情報になる

若者研究所では、現役の学生研究員によるグループインタビューや定点調査を通じて、観光・小売企業のインバウンド戦略と商品開発を支援しています。若者リサーチのご依頼お問い合わせはお気軽にどうぞ。

よくある質問

海外のZ世代はどうやって日本旅行の行き先を決めていますか?

TikTokやInstagramで見た動画を保存し、その場所を地図アプリに登録して旅程を組み立てる進め方が主流です。有名な観光地かどうかよりも、動画として面白いかどうかが行き先選びの基準になっています。

訪日外国人はどのくらい増えていますか?

日本政府観光局の発表では、2025年の訪日外国人旅行者数はおよそ4,268万人で、初めて4,000万人を超えて過去最高を更新しました。観光庁の調査では、旅行消費額も9兆4,559億円と過去最高です。

若い訪日客に人気のスポットにはどんな特徴がありますか?

アニメの聖地である鎌倉高校前の踏切、原宿のプリクラ、ドン・キホーテでの菓子の爆買い、ガチャガチャなど、自分が参加して短い動画で共有できる体験が人気です。見るだけの名所よりも、撮って見せられる場所が選ばれています。

この記事を書いた人

石崎健人
石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。

この記事の監修者

三上広葉
三上 広葉 | 若者の研究所 所長

2025年より株式会社バイデンハウス取締役。バイデンハウスの飲料・食料、美容・コスメ、SNSのリーダーシップ。Z世代、サブカルチャー、海外トレンドへの幅広い知見を強みにZ世代マーケティングの支援を得意とする。

この記事を書いた人

石崎 健人

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。