海外Z世代のSNS事情。TikTok規制と国ごとに違う勢力図

2025年1月18日の深夜、アメリカのスマートフォンからTikTokが消えました。アプリを開いても利用停止を告げる文面が出るだけで、1億7000万人のユーザーが一斉に締め出されたのです。翌日には復旧したものの、若者のアプリが安全保障の議題になる時代を象徴する半日でした。日本にいると気づきにくいのですが、Z世代のSNSの勢力図は国ごとに驚くほど違います。

アメリカ|TikTok売却法の決着と、連絡の主役はSnapchat

冒頭の一時停止の引き金は、2024年4月に成立した通称TikTok売却法です。中国のByteDanceがアメリカ事業を手放さなければ配信を禁じるという内容で、連邦最高裁も2025年1月にこの法律を支持しました。その後は大統領令による猶予が重ねられ、2026年1月にOracleやSilver Lakeなどが出資する合弁会社へ運営が移り、ByteDanceの持ち分を19.9%に抑えるかたちで決着しています。

一方で、アメリカの10代の連絡手段は日本と大きく異なります。主役はLINEではなくSnapchatとiMessageです。ピュー・リサーチ・センターの2024年の調査では、13歳から17歳の55%がSnapchatを使うと答えました。日本ではほぼ存在感のないアプリが、海の向こうでは教室の標準装備になっています。日本のSNS利用実態と見比べると、その差は歴然です。

オーストラリア|16歳未満はアカウント保有も禁止

オーストラリアでは2024年11月、16歳未満のSNS利用を禁じる法律が成立し、2025年12月10日に施行されました。年齢を理由に国家がSNSを規制する世界初の試みです。対象はInstagram、TikTok、YouTube、Snapchat、Xなど10のプラットフォームで、新規登録だけでなく既存アカウントの保有も認められません。
設計として面白いのは罰則の向き先です。罰せられるのは子どもでも保護者でもなく事業者側で、対策を怠った企業には最大4950万豪ドル、日本円でおよそ51億円の罰金が科されます。年齢確認の精度をめぐる議論は続いていますが、この社会実験を各国の規制当局が注視しています。

フランス|盛らないSNSはヨーロッパから生まれた

加工と映えを競うSNS文化への対抗が、2020年にフランスで生まれたBeRealです。1日1回のランダム通知から2分以内に、無加工の写真を前面と背面のカメラで同時に撮って送る。この引き算の設計が世界のZ世代に刺さり、2024年にはフランスのゲーム会社Voodooが約5億ユーロで買収しました。今では日本が世界有数の主要市場に育っています。
詳しいBeRealの使われ方はさておき、盛る文化の総本山のようなアメリカではなくフランスから逆張りの思想が出てきたことは示唆的です。

中国|TikTokすら使えない、もうひとつのSNS大陸

中国本土ではInstagramもXもYouTubeも、そして国際版のTikTokすら使えません。若者の生活を支えるのは微信、抖音、小紅書といった国内アプリ群です。抖音はTikTokと同じByteDance製ですが中身は別のアプリで、14歳未満の利用を1日40分までに制限する青少年モードが組み込まれています。
2025年1月、アメリカでTikTok停止が迫った際には、行き場を失ったアメリカの若者が小紅書へ大移動し、アメリカのApp Store無料ランキングで1位に躍り出る珍事も起きました。TikTok難民と呼ばれたこの現象は、規制が生む人の流れの予測不能さを物語っています。

国別に見る若者SNSの勢力図

国・地域 若者の主なSNS 特徴と規制の動き
日本 LINE、Instagram、X、TikTok 連絡はLINEがほぼ独占。Xの浸透度が世界的に見て突出
アメリカ YouTube、TikTok、Instagram、Snapchat 連絡はSnapchatとiMessage。TikTokは米資本の合弁体制へ
オーストラリア Instagram、TikTok、Snapchat 16歳未満のアカウント保有を法律で禁止
フランス Instagram、TikTok、BeReal BeReal発祥国。EUはデジタルサービス法で大手SNSを監督
中国 微信、抖音、小紅書 海外SNSは遮断。未成年の利用時間を国が制限
韓国 KakaoTalk、Instagram、YouTube 連絡はKakaoTalkが標準。国産アプリが強い

並べてみると、全世界で共通の顔ぶれと呼べるのはYouTubeとInstagramくらいで、連絡手段にいたっては国ごとに全部違います。どの国のZ世代も同じアプリで生きているという想定は、この表の前では成り立ちません。

日本の常識は世界標準ではない|海外の動きは数年後の鏡

SNSの勢力図を描くのはアルゴリズムではなく、各国の規制と文化。LINEで連絡しXで拡散する日本の若者の日常は、世界地図の上ではローカルルールのひとつにすぎない。研究所ではそう捉えています。

海外のZ世代に向けて事業を考えるなら、日本での成功パターンをそのまま輸出するのは危険です。国を変えれば、使うアプリも、盛るか盛らないかの感覚も、規制の縛りも変わります。
逆もまた同じです。オーストラリアの年齢規制やアメリカの売却劇は対岸の火事ではなく、いずれ日本の制度議論にも波及します。海外Z世代のSNS事情を追いかけることは、数年後の日本の若者市場を先回りして見ることでもあるのです。

若者研究所では、現役の学生研究員へのグループインタビューや定点調査を通じて、国内外のZ世代のSNS観やトレンドを企業のマーケティングと商品開発につないでいます。若者リサーチのご依頼お問い合わせはお気軽にどうぞ。

よくある質問

アメリカでTikTokは禁止されたのですか?

禁止はされていません。2024年成立の法律で中国のByteDanceに売却が義務付けられ、2025年1月に一時停止した後、2026年1月にOracleなどが出資するアメリカ資本中心の合弁会社へ運営が移りました。ユーザーは今も通常どおり利用できます。

オーストラリアの16歳未満SNS禁止法とはどんな法律ですか?

2024年11月に成立し2025年12月10日に施行された、16歳未満のSNSアカウント保有を禁じる世界初の法律です。罰則の対象は子どもや保護者ではなく事業者側で、対策を怠ると最大4950万豪ドルの罰金が科されます。

海外のZ世代は日本と違うSNSを使っているのですか?

大きく異なります。アメリカの10代は連絡にSnapchatやiMessageを使い、中国では微信や抖音、小紅書といった国内アプリが中心です。LINEが連絡手段の標準である国はほとんどなく、若者のSNSの顔ぶれは国ごとに違います。

この記事を書いた人

石崎健人
石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。

この記事の監修者

三上広葉
三上 広葉 | 若者の研究所 所長

2025年より株式会社バイデンハウス取締役。バイデンハウスの飲料・食料、美容・コスメ、SNSのリーダーシップ。Z世代、サブカルチャー、海外トレンドへの幅広い知見を強みにZ世代マーケティングの支援を得意とする。

この記事を書いた人

石崎 健人

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。