卒業式のガウンを着たまま、スマホで学生ローンの残高を確かめる22歳。TikTokに顔を出して自分の年収と交渉の経緯を語る新入社員。世代論の本家アメリカのZ世代は、日本の同世代と同じアプリを使いながら、まったく違う環境を生きています。定義から政治、消費、キャリア観まで、その実像をたどります。
アメリカのZ世代とは|1997年から2012年生まれ、史上最も多様な世代
世代区分の事実上の標準をつくったのは、ワシントンの調査機関ピュー・リサーチ・センターです。同センターは1997年から2012年に生まれた人々をZ世代と定義し、ミレニアル世代との線を1996年に引きました。iPhoneが発売された2007年に最年長でも10歳。物心つく前からスマホが存在した、最初の世代です。
もうひとつの軸が多様性です。ピュー・リサーチ・センターはZ世代をアメリカ史上もっとも人種的・民族的に多様な世代と位置づけており、ほぼ半数を白人以外が占めます。白人が圧倒的多数のアメリカを、この世代は最初から知りません。Z世代という言葉は世界共通でも、その中身は国の数だけあります。
政治|若者票の存在感と2024年の地殻変動
この世代を政治の主役に押し上げたのが、2018年のマーチ・フォー・アワー・ライブズでした。フロリダ州パークランドの高校で起きた銃乱射事件の生存者たちが銃規制を求めて全米デモを主導し、声を上げれば社会が動くという体験を高校生のうちに手にしたのです。
数字にも表れています。タフツ大学の研究機関CIRCLEの推計では、2020年大統領選の18〜29歳の投票率は50%を超え、2024年も47%と高い水準でした。ただし中身は激変しています。2024年の若者票はハリス支持51%に対しトランプ支持47%。民主党へ大きく傾いてきた差がわずか4ポイントまで縮み、若い男性の保守化が世界的なニュースになりました。
若者イコールリベラルという図式は2024年に寿命を迎えました。アメリカのZ世代はひとつの塊ではなく、性別と学歴で引き裂かれた世代。そこを見誤ると分析のすべてがずれます。
学生ローン|1.7兆ドルの借金が人生の出発点を縛る
アメリカの若者を理解するうえで外せないのが学生ローンです。米連邦準備制度の統計では、全米の学生ローン残高は約1.7兆ドル。日本円でおよそ250兆円という規模の借金を、主に若い世代が背負っています。州立大学でも学費と寮費で年間数百万円に届くことは珍しくなく、卒業と同時に数万ドルの返済生活が始まります。
バイデン政権が掲げた返済免除策は2023年に連邦最高裁が退け、問題は宙づりのままです。初任給の高さだけを見てアメリカの若者は豊かだと結論づけると、実像を大きく見誤ります。就職先を給与で選ぶ切実さも、後述する交渉の文化も、この借金を抜きには説明できません。
消費|古着とリセール、財布で投票する世代
借金と物価高を背負う世代の消費は、堅実さと意思表示が同居しています。古着や中古品への抵抗は薄く、DepopやThredUpのようなリセールアプリで服を売り買いするのは日常の風景です。新品を定価で買うより、賢く回すほうが格好いい。この金銭感覚は日本の同世代とも重なります。
一方で日本より濃いのが、ブランドへの態度表明です。環境や人権の問題で企業の姿勢を問い、合わなければ買わない、ときにSNSで名指しして批判する。財布を投票用紙のように使う感覚は、デモと投票で育った政治意識と地続きです。
働き方|副業45%、転職と静かな退職が標準装備
デロイトが世界数十カ国で実施しているZ世代・ミレニアル年次調査の2025年版では、Z世代の約45%が副業を持つと答えました。最大の動機は生活費で、物価高はこの調査で3年連続の最重要関心事です。配車や配達のギグワーク、ネット物販、クリエイター活動。副業は自己実現の手段である前に、家計防衛の手段になっています。
転職もキャリアアップの当然の一手で、勤続年数より市場価値が物差しになります。2022年にTikTokから世界へ広がった静かな退職という言葉も、震源はアメリカの若手会社員でした。賃金以上に働くことをやめ、契約の範囲で淡々と働く。忠誠心の見返りが保証されない社会での、合理的な自衛策です。海外の働き方のなかでも、市場と個人の緊張感はアメリカが突出しています。
日本のZ世代との違い|自己主張と交渉の文化
| 項目 | アメリカのZ世代 | 日本のZ世代 |
|---|---|---|
| 社会に出る条件 | 学生ローンを背負って就職 | 大きな借金なしで就職 |
| 給与の扱い | 年収を公開し条件を交渉する | お金の話は半ばタブー |
| 政治との距離 | デモと投票で意思表示 | 距離を置く人が多数派 |
| キャリアの前提 | 転職と副業で市場価値を磨く | 安定と成長のバランス志向 |
同じデジタルネイティブでも、育った土俵がこれだけ違います。ニューヨーク市が2022年に求人広告への給与レンジ明示を義務づけるなど、アメリカでは賃金の透明化が制度になり、若者はそれを交渉の材料として使いこなします。初任給が横並びの日本とは正反対の景色です。
日本のZ世代が空気を読む達人だとすれば、アメリカのZ世代は条件を読む交渉人。同じ世代でも、鍛えられてきた筋肉がまるで違います。
もっとも、推し活への熱量やSNSでの表現感覚など、国境を越えて共通する部分も少なくありません。海外のZ世代を広く見渡したうえで、日本との違いを具体的に押さえることが、グローバルな若者理解の第一歩になります。
若者研究所では、現役の学生研究員へのグループインタビューや定点調査を通じて、日本の若者のリアルと海外の同世代との差分を企業のマーケティングや商品開発につないでいます。若者リサーチのご依頼やお問い合わせはお気軽にどうぞ。
よくある質問
アメリカのZ世代は何年生まれを指しますか?
調査機関ピュー・リサーチ・センターの定義では、1997年から2012年に生まれた世代を指します。iPhoneが登場した2007年に最年長でも10歳で、物心つく前からスマートフォンとSNSがある環境で育った最初の世代です。
アメリカのZ世代と日本のZ世代の大きな違いは何ですか?
自己主張と交渉の文化です。アメリカでは年収を公開して待遇を交渉し、デモや投票で政治的な意思表示をすることが珍しくありません。学生ローンという大きな借金を背負って社会に出る点も、日本との決定的な環境の違いです。
アメリカのZ世代はなぜ副業をする人が多いのですか?
最大の理由は生活費の高騰です。デロイトが世界規模で行うZ世代・ミレニアル調査の2025年版では、Z世代の約45%が副業を持つと回答しており、物価高が数年連続で最重要の関心事に挙げられています。


