ソウルの地下鉄で、ジャカルタの屋台の前で、ベルリンの公園で。若者たちは同じように手のひらの画面をのぞき込み、同じ音源に合わせてショート動画を撮っています。世界のZ世代はかつてないほど似た道具を持ちながら、国ごとにまるで違う現実を生きています。
若者研究所が海外の若者を調べるときにまず押さえる、世界共通の土台と国・地域ごとの違いを、一枚の地図のように整理します。
世界のZ世代に共通する土台|スマホ、不安定な時代、気候とお金
Z世代の区切りとして世界で最も引用されるのは、アメリカの調査機関ピュー・リサーチ・センターによる1997年から2012年生まれという定義です。日本での定義や価値観はZ世代の基礎知識に譲るとして、世界に目を向けると、どの国の若者にも3つの土台が共通しています。
- スマホネイティブであること。物心つく頃にはスマホとSNSがあり、情報も人間関係も買い物も手のひらの中で育ちました
- 不安定な時代しか知らないこと。リーマンショック、パンデミック、戦争と分断。安定が当たり前だった時代の記憶がありません
- 気候とお金への不安。デロイトが毎年実施している世界規模のZ世代調査でも、生活費と気候変動が不安の上位に並び続けています
ここまでは世界共通です。問題は、この同じ土台の上に、国ごとに全く違う建物が建っていることです。ここから国と地域を順に見ていきます。
アメリカのZ世代|史上最も多様な世代とTikTok規制論争
アメリカのZ世代は、同国史上最も人種的に多様な世代です。ピュー・リサーチ・センターの分析では白人がおよそ半数にとどまり、ヒスパニックやアジア系の割合がかつてなく高くなっています。多様性は理念として学ぶものではなく、教室の風景そのものでした。
一方で、学生ローンの重さや、銃乱射事件を想定した避難訓練といった独特の重荷も抱えています。2018年にフロリダ州の高校生たちが立ち上げた銃規制デモ、マーチ・フォー・アワ・ライブズは、Z世代が政治の主役に躍り出た瞬間として記憶されています。
そして2024年にはTikTokの売却か禁止かを迫る連邦法が成立し、2025年1月には一時的にアプリが止まる事態も起きました。それでも若者の利用熱は冷めず、政治とプラットフォームの綱引きが続いています。この続きはアメリカの若者たちの現在地で詳しく追いかけています。
中国のZ世代|国潮の誇りと躺平のあきらめが同居する
中国のZ世代は、経済の急成長とともに育った最初の世代です。生まれた時から自国が強くなり続けていたため国産ブランドへの誇りが強く、2018年にスポーツブランドの李寧がニューヨークファッションウィークに登場したことを合図に、国産回帰の潮流「国潮」が一気に広がりました。
その同じ世代から、2021年には「躺平」という言葉が生まれます。寝そべるという意味で、内巻と呼ばれる過酷な受験と就職の競争に疲れ、頑張ることから静かに降りる生き方の宣言です。国への誇りと個人としてのあきらめが、一人の若者の中に同居している。これがこの国を読み解く核心で、中国の若者のリアルで掘り下げています。
韓国のMZ世代|世界最高水準の競争圧とカルチャー輸出力
韓国ではミレニアル世代とZ世代をまとめてMZ世代と呼ぶのが定番です。彼らを語る上で外せないのが競争の圧力で、大学修学能力試験、通称スヌンの英語リスニングの時間帯には航空機の離着陸が止まります。国を挙げた受験競争の象徴です。
就職難と住宅価格の高騰の先で恋愛や結婚を後回しにする若者も増え、韓国統計庁が発表する合計特殊出生率は0.7前後まで下がりました。
同時に、この世代はBTSやNewJeansを世界に送り出したK-カルチャーの担い手でもあります。息苦しさと創造力が背中合わせになった構造は、韓国の若者たちの光と影にまとめています。
東南アジアのZ世代|モバイルファーストで大人になる
ASEANは国連の推計で約6億7,000万人の人口を抱え、その年齢構成は先進国よりはるかに若いのが特徴です。この地域のZ世代はパソコンの時代をほとんど経験せず、最初からスマホでインターネットに出会いました。
配車も決済も出前もひとつで済むGrabのようなスーパーアプリが生活の中心にあり、インドネシアはTikTok Shopによるライブコマースが世界で最も熱い市場のひとつになりました。
もうひとつの特徴は楽観です。経済が伸び続ける国で育った若者は、欧米や日本の同世代よりも将来を明るく見ています。悲観が土台の先進国と、楽観が土台の新興国。同じZ世代でも出発点が逆なのです。急成長する東南アジアの若者市場は、日本企業にとって次の主戦場になります。
ヨーロッパのZ世代|気候ストライキと古着が日常にある
2018年8月、当時15歳のグレタ・トゥーンベリがスウェーデン議会の前に座り込み、気候のための学校ストライキを始めました。この行動はFridays for Futureとして各国に広がり、2019年には世界で数百万人規模の若者が街頭に立ったとされます。ヨーロッパのZ世代にとって気候変動は数ある社会問題のひとつではなく、政治参加の入口そのものです。
消費の面では、リトアニア発のフリマアプリVintedに代表される古着売買がすっかり日常になりました。新品を買わないことがおしゃれであり、倫理でもある。エラスムス計画で国境を越えて学ぶ学生も多く、自国よりヨーロッパという単位で物事を考える感覚が根付いています。国ごとの違いはヨーロッパの若者たちで紹介しています。
国・地域別の比較表|世界のZ世代をキーワードで一望する
ここまでの各地域を一枚に並べると、同じ世代の景色がどれだけ違うかが見えてきます。
| 国・地域 | 象徴するキーワード | 背景にあるもの |
|---|---|---|
| アメリカ | 多様性、銃規制デモ、TikTok規制論争 | 史上最も多様な人口構成と社会の分断 |
| 中国 | 国潮、躺平、内巻 | 急成長の誇りと過当競争の疲れ |
| 韓国 | MZ世代、スヌン、K-カルチャー | 世界最高水準の競争圧と文化輸出力 |
| 東南アジア | スーパーアプリ、TikTok Shop | 若い人口と伸び続ける経済への楽観 |
| ヨーロッパ | 気候ストライキ、古着、エラスムス | 成熟社会と環境意識の制度化 |
| 日本 | 推し活、タイパ、安定志向 | 低成長の常態化と失敗コストへの敏感さ |
世界のZ世代は、同じアプリを使う別々の世代です。道具が世界で共通になったぶん、その道具で何を欲しがり、何を恐れているかという中身の差こそが調査の本丸になる。研究所ではそう考えています。
世界のSNS事情|同じ画面の向こうに別々の生態系がある
TikTokとInstagramの二強はほぼ世界共通ですが、その脇を固めるアプリには地域色が濃く出ます。
| 地域 | 若者に強いプラットフォーム |
|---|---|
| アメリカ | TikTok、Instagram、Snapchat |
| 中国 | 抖音、小紅書、WeChat |
| 韓国 | Instagram、KakaoTalk、YouTube |
| 東南アジア | TikTok、WhatsApp、Shopee |
| ヨーロッパ | Instagram、WhatsApp、BeReal |
| 日本 | LINE、X、Instagram |
中国は国外のSNSがほぼ使えないため、完全に独立した生態系を築いています。日本はXの利用率の高さが世界的に見て特異です。プラットフォームが違えば、流行語もミームも別々に育ちます。各国の勢力図は世界のSNS勢力図に、英語圏で今使われている言葉は英語圏の若者スラングにまとめました。
世界のZ世代の働き方|Quiet Quittingが映す共通の疲れ
2021年のアメリカでは大退職と呼ばれる現象が起き、米労働省の統計では約4,700万人が自発的に仕事を辞めました。翌2022年にTikTokから広がった言葉がQuiet Quittingです。静かな退職と訳されますが、実際に辞めるわけではなく、契約以上の頑張りをやめて仕事と適切な距離を取る働き方を指します。
中国の躺平、若者が公務員試験に殺到した時期の韓国、休暇を削らないヨーロッパ。言葉は違っても、仕事に人生を丸ごと預けない感覚は世界の若者に共通しています。国ごとの違いと日本企業への示唆は海外の若者の働き方で解説しています。
日本のZ世代は何が違うのか|声を上げる世界と選択で示す日本
世界と並べると、日本のZ世代の輪郭もはっきりします。最大の違いは社会への働きかけ方です。日本財団の18歳意識調査では、自分で国や社会を変えられると思うと答えた日本の若者は2割前後にとどまり、調査対象国の中で最下位が続いています。デモや署名で直接声を上げる欧米の同世代に対し、日本の若者は消費や推し活といった身近な選択で意思を示します。
日本の若者だけが内向きなのではありません。声の上げ方の様式が違うだけで、社会への感度そのものは世界水準にあります。海外調査を設計するとき、研究所はまずこの前提から始めます。
不安の中身、失敗したくない感覚、意味で選ぶ消費の目は世界共通で、違うのは表現の回路です。項目ごとの詳しい比較は日本と海外のZ世代の違いで行っています。
若者研究所では、現役の学生研究員による国内調査に加えて、海外のZ世代を対象にしたデスクリサーチやグローバルな若者トレンドの調査もお手伝いしています。海外展開やインバウンド施策で世界の若者を捉えたい方は、若者リサーチのご依頼やお問い合わせからお気軽にご相談ください。
よくある質問
海外と日本のZ世代に共通する点は何ですか?
スマホとSNSとともに育ったこと、不安定な時代しか知らないこと、生活費や気候変動に不安を抱えていることが世界共通の土台です。デロイトの国際調査でも生活費と気候変動は若者の不安の上位に並んでいます。
海外のZ世代と日本のZ世代の一番大きな違いは何ですか?
社会への働きかけ方です。欧米の若者はデモや署名で直接声を上げることが多いのに対し、日本の若者は消費や推し活など身近な選択で意思を示すところに違いがあります。
中国の躺平とはどんな意味ですか?
寝そべるという意味の言葉で、過酷な受験や就職の競争から距離を置き、頑張りすぎない生き方を選ぶ若者の姿勢を指します。2021年頃から中国のSNSで広がり、社会現象になりました。
韓国でMZ世代と呼ばれるのはどの世代ですか?
ミレニアル世代とZ世代をまとめた韓国独自の呼び方で、1980年代前半から2010年頃までに生まれた若者を幅広く指します。メディアや企業のマーケティングで広く使われています。


