推しのライブ遠征のためにバイトのシフトを増やし、そのぶん毎日のランチを削る。若者研究所の学生研究員と話していると、推し活の出費はもはや趣味の小遣いではなく、生活の予算編成に最初から組み込まれた固定費に近いものだと感じます。
お金の流れを追いかけると、いまの若者の消費の優先順位がくっきりと浮かび上がってきます。
推し活のお金はどこへ流れるのか|使途は大きく5つ
ひとくちに推し活といっても、お金の使い道はいくつかの層に分かれています。研究員たちから聞く使途を整理すると、おおよそ次の5つに集約されます。
| 使途 | 中身 | 特徴 |
|---|---|---|
| グッズ | アクリルスタンド、うちわ、CD、トレーディングカード | ランダム封入のため同じ商品を複数買う構造になりやすい |
| 現場 | ライブ、舞台、イベント、コラボカフェ | チケット代に物販やカフェ代がセットで発生する |
| 遠征 | 交通費、宿泊費 | 公演地によってはチケット代本体を大きく上回る |
| 祭壇 | グッズを飾る棚、ケース、装飾 | SNSに投稿して見せるところまで含めた消費 |
| ギフティング | ライブ配信の投げ銭、応援広告 | 推しに直接届く実感が強く、熱量に比例して伸びる |
注目したいのは、グッズという物の消費だけでなく、現場や遠征といった体験の消費、祭壇やギフティングのような気持ちを形にする消費の存在感が増していることです。
推しに年間いくら使うのか|公開調査の数字
矢野経済研究所が2025年に発表したオタク消費のアンケート調査では、対象となった31分野の一人当たり年間平均消費金額は約5万円でした。なかでもアイドル分野は約11万円と突出しています。チケットや遠征など現場系の出費が積み上がるジャンルほど、金額は跳ね上がるわけです。
もっとも研究員たちを見ていると、平均値はあまり意味を持ちません。グッズ中心で月数千円に収める学生もいれば、ツアーが重なる月には支出が一気に膨らむ学生もいて、同じ人でもイベントの有無で財布は大きく波打ちます。
推し活のために働き、推し活のために削る
研究員の話で印象的なのは、支出の額そのものよりも、生活の設計が推し活から逆算されていることです。ツアー日程が発表されるとまずバイトのシフトを組み直し、遠征月に向けて食費やコスメ代を圧縮する。推し活専用の口座や封筒を分けて管理する学生も珍しくありません。
締めるところは徹底的に締めて、推しには惜しまない。このZ世代の金銭感覚を象徴するメリハリの構造が、推し活経済の土台にあります。
推し活の出費は浪費ではなく、働く理由と節約する理由が同じ一点に向かう生活のエンジンです。だからこそ物価高の逆風でも、簡単には削られません。
応援がお金のかたちに変わる理由
なぜここまでお金をかけるのか。研究所でよく話題になるのは、推し活の支出が対価というより応援の意思表示だという点です。CDを複数枚買うのは音源が欲しいからではなく、売上という数字で推しの実績をつくるため。ギフティングも同じで、推しの活動を続けさせるための投資に近い感覚です。
さらに祭壇の写真をSNSに投稿し、同じ推しを持つ仲間とつながっていく。消費が自己表現とコミュニティへの参加を兼ねるところは、Z世代の消費行動の全体に通じる特徴です。
企業の推し活マーケはなぜ当たり外れが大きいのか
推し活の経済圏をねらう企業の動きは、食品からホテルまで一気に広がりました。ただ、成果は二極化しています。研究員の反応を見ていると、分かれ目は割引や豪華さではなく、ファン文化への理解の深さです。
- 刺さる施策。推し色のスイーツやドリンク、名前や記念日を入れられるケーキ、応援広告への場所貸しなど、ファンの祝いたい気持ちに道具を差し出すもの
- 外す施策。作品の文脈を無視した安易なコラボや、ファンの間で大切にされている世界観を踏み荒らす表現。かえって反発や不買につながることもあります
ファンは企業が推しをどう扱うかを驚くほど細かく見ています。推し活マーケの成否は、ファンと同じ目線で対象を尊重できるかどうかにかかっています。
推し活経済はどこへ向かうのか
物価高で若者の財布が締まるなかでも、推しへの支出は最後まで残る聖域だと研究員たちは口をそろえます。一方で、際限なく増えるわけでもなく、複数の推しのあいだで優先順位をつける取捨選択も始まりました。金額の多寡ではなく、生活の中心に何を置くかという設計思想として推し活を捉えること。それが若者の消費を読み解く出発点になります。
若者研究所では、現役の学生研究員へのインタビューや定点調査を通じて、推し活をはじめとする若者消費のリアルを企業のマーケティングと商品開発につなげています。若者リサーチのご依頼やお問い合わせ、メディアの方の取材のご相談もお気軽にどうぞ。
よくある質問
推し活には平均でどれくらいお金がかかりますか?
矢野経済研究所が2025年に発表した調査では、オタクを自認する31分野の一人当たり年間平均消費金額は約5万円で、アイドル分野は約11万円と突出しています。ジャンルやイベントの有無によって支出は大きく変動します。
推し活のお金は主に何に使われますか?
グッズの購入、ライブやイベントなどの現場参加、遠征の交通費と宿泊費、グッズを飾る祭壇づくり、配信の投げ銭などのギフティングが主な使い道です。近年は物の消費だけでなく、体験や応援に直接つながる支出の存在感が増しています。
企業が推し活マーケティングで失敗しないためのポイントは何ですか?
ファン文化への理解と対象への敬意が欠かせません。推し色の商品や記念日を祝える仕掛けのようにファンの気持ちに寄り添う施策は支持されやすく、文脈を無視した安易なコラボは反発を招きやすくなります。


