イミ消費、トキ消費、エモ消費。若者の消費を語る言葉は、この10年で一気に増えました。ところが商品開発やマーケティングの現場でよく聞くのは、結局どれが本命なのかという戸惑いです。実はこの3つ、対立する概念ではありません。モノ消費からコト消費へと続く大きな流れの先に枝分かれした、いわば兄弟のような関係です。系譜をたどれば、それぞれの持ち場がはっきり見えてきます。
モノ消費からコト消費へ|すべての議論の出発点
消費論の系譜をたどると、出発点はモノ消費とコト消費の対比にあります。モノ消費は、商品そのものの所有に価値を置く消費です。テレビ、車、ブランドバッグ。高度経済成長期からバブル期まで、持つこと自体がステータスであり、幸福の形でした。
一方のコト消費は、商品やサービスを通じて得られる体験に価値を置きます。旅行、ライブ、習い事。モノが行き渡って所有の喜びが薄れた2000年代以降、企業はコト消費への対応を迫られてきました。
イミ消費もトキ消費もエモ消費も、このコト消費をさらに細かく見ようとするなかで生まれた言葉です。体験と一口に言っても、人によって求めるものが違う。その違いに名前をつけたのがこの3つだと考えると、見通しがよくなります。
イミ消費とは|社会的な意味に対価を払う
イミ消費は、商品や体験そのものに加えて、その消費が社会や文化に対して持つ意味に価値を見いだす消費です。リクルートのホットペッパーグルメ外食総研が外食トレンドの文脈で提唱した言葉として知られています。
典型例は、被災地の食材を選んで買う、環境負荷の少ないブランドを選ぶ、なじみの個人店にあえてお金を落とす、といった行動です。同じ金額を使うなら、誰かの役に立つほうへ、自分の価値観に合うほうへ。エシカル消費や応援消費と重なる部分の大きい概念です。
トキ消費とは|二度と再現できない時間に参加する
トキ消費は博報堂生活総合研究所が提唱した概念で、その時、その場でしか味わえない盛り上がりに参加する消費を指します。非再現性、参加性、貢献性の3つが条件とされます。
ハロウィン当日の渋谷、推しのラストライブ、ワールドカップのパブリックビューイング。あとから動画で見られたとしても、その場にいたという事実だけは再現できません。モノでもなく、パッケージ化された体験でもなく、一回きりの時間そのものが対価の対象になります。
エモ消費とは|感情が動くことそのものが目的
エモ消費は、懐かしさや切なさ、多幸感といった感情の揺れを求める消費です。学術的な定義があるわけではなく、SNSと若者マーケティングの現場から自然発生的に広がった言葉で、SHIBUYA109 lab.のZ世代研究などでも使われています。
使い捨てカメラで撮る放課後、平成レトロの純喫茶めぐり、閉店が決まった思い出の店を訪ねる週末。共通するのは、心が動いた瞬間をSNSで共有し、共感でつながるところまで含めて消費が完結する点です。
Z世代の消費行動の研究では、エモ消費はコスパやタイパと並ぶキーワードとして扱われます。効率を極めたタイパ消費の反動として、あえて手間のかかる体験が選ばれるという見方もあります。
5つの消費概念を一枚の表で整理する
ここまでの概念を並べると、それぞれの違いがはっきりします。
| 概念 | 価値の中心 | 典型例 | 核になる問い |
|---|---|---|---|
| モノ消費 | 所有 | 車、家電、ブランド品 | 何を持つか |
| コト消費 | 体験 | 旅行、ライブ、習い事 | 何をするか |
| イミ消費 | 社会的な意味 | 応援購入、エシカル商品 | 何のために買うか |
| トキ消費 | 一回きりの時間 | フェス、ハロウィンの街 | いつ、その場にいるか |
| エモ消費 | 感情の揺れ | 平成レトロ、使い捨てカメラ | 心がどう動くか |
注意したいのは、実際の若者の消費がこの表のどれか1つに収まらないことです。推し活はトキ消費でありエモ消費であり、推しを支えるという点ではイミ消費でもあります。概念は消費を切り分けるための包丁であって、消費者を入れておく箱ではありません。
言葉が増えるほど見えなくなるもの|研究所の視点
研究所で学生研究員と話していると、イミ消費やエモ消費という言葉を本人たちがほとんど使わないことに気づきます。彼らにとってはどれもただの買い物であり、ただの週末です。ラベルは大人の側の整理棚にすぎません。
新しい消費の言葉が生まれるたびに、若者が変わったように見えます。けれど変わったのは若者ではなく、大人が若者を見るためのレンズのほうかもしれません。
概念の乱立には副作用もあります。エモ消費という箱を先に用意すると、その箱に入る事例ばかりを集めてしまい、箱に入らない行動が視界から消えるのです。ターゲットはトキ消費型だと決めた瞬間に、その人が平日の夜にしている地味な節約や、誰にも見せない一人きりの楽しみは分析から抜け落ちます。
だからこそ言葉は仮説として使い、答えは本人に聞くしかありません。概念を覚えることより、目の前の一人がなぜそれにお金を払ったのかを聞き切ることのほうが、商品開発にはずっと役に立ちます。
若者研究所では、現役の学生研究員へのインタビューや定点調査を通じて、消費のラベルの奥にある本音を企業のマーケティングと商品開発に届けています。若者リサーチのご依頼やお問い合わせはお気軽にどうぞ。
よくある質問
イミ消費とトキ消費の違いは何ですか?
イミ消費は消費が持つ社会的な意味に価値を置き、被災地支援の購入やエシカル商品の選択が典型です。トキ消費はその時その場でしか味わえない一回きりの時間への参加に価値を置き、フェスやハロウィンの盛り上がりが典型です。何のために買うかと、いつその場にいるかという問いの違いで整理できます。
エモ消費とは何ですか?
懐かしさや切なさ、多幸感といった感情の揺れそのものを目的とする消費を指す言葉です。平成レトロの純喫茶めぐりや使い捨てカメラでの撮影などが例に挙げられ、心が動いた瞬間をSNSで共有し、共感でつながるところまで含めて楽しむ点が特徴とされています。
モノ消費とコト消費はもう古い考え方なのですか?
古くなったわけではありません。所有に価値を置くモノ消費、体験に価値を置くコト消費という土台の上に、イミ消費やトキ消費、エモ消費といった細分化された概念が積み重なっています。実際の消費行動は複数の要素を同時に含むため、土台となる二つの理解は今も欠かせません。


