コンビニの棚から特定のグミだけが消える。30年以上前の小説が突然ベストセラーに返り咲く。この数年、小売や出版の現場で実際に起きてきた出来事の裏側には、たいていTikTokがありました。
若者研究所の学生研究員に買い物のきっかけを聞いても、真っ先に名前が挙がるのがTikTokです。なぜ15秒の動画がテレビCMより強くZ世代を動かすのか。実在の事例から、バズが購買に変わるまでの心理をたどります。
TikTok売れとは|2021年ヒット商品の1位に選ばれた現象
TikTok売れとは、TikTok上の動画をきっかけに特定の商品が爆発的に売れる現象のことです。日経トレンディが選ぶ2021年ヒット商品ベスト30では、数ある商品を差し置いて、このTikTok売れという現象そのものが1位に選ばれました。
特徴は2つあります。売れるまでのスピードが極端に速いこと。そして、メーカーが何も仕掛けていないのに売上が跳ね上がるケースが多いことです。従来のマーケティングの常識では説明しづらい動き方をします。
地球グミから30年前の小説まで|実在のTikTok売れ事例
広く報道された代表例を3つ挙げます。
| 商品 | 何が起きたか |
|---|---|
| 地球グミ | 惑星の形をしたドイツ生まれのグミ。開封して食べる動画が大量に投稿され、関連投稿は5億回以上再生。全国で品切れが続出し、一時は入手困難になった |
| 残像に口紅を(筒井康隆) | 約30年前に発表された小説。小説紹介クリエイターのけんご氏が2021年に投稿した紹介動画をきっかけに、11万5000部の増刷につながった |
| ファイブミニ(大塚製薬) | 発売から30年以上たつ食物繊維飲料。ダイエット系のアレンジレシピ動画が流行し、メーカーが何も仕掛けていないのにコンビニの1日の販売数が突然2倍になった |
共通点は、どれも新商品ではないことです。前からそこにあったものが、動画という文脈を得た瞬間に発見される。ここにTikTok売れの本質があります。
バズから購買まで|Z世代の頭の中で起きる3段階
研究所でZ世代の購買行動を観察していると、TikTok売れの心理導線はおおむね3つの段階に整理できます。
- 偶然の発見。おすすめフィードは、検索ではなく偶然の出会いという形で商品を届けます。自分で見つけた感覚が残るため、売り込まれた感じがしません
- みんな買ってる感。同じ商品の動画が何度も流れてくると、世の中全体で流行している空気が生まれます。実際の規模以上に、乗り遅れへの焦りが働きます
- 売り切れる前に。品薄を報告する動画がさらに拡散し、今買わなければ手に入らないという希少性が最後のひと押しになります
地球グミはこの3段階が教科書のように働いた例です。品切れの情報そのものがコンテンツになり、店を探し回る動画まで再生数を伸ばしました。買えないことが、さらに買いたい気持ちを加速させたわけです。
広告っぽくないことの威力
ファイブミニの初動に、広告は一切ありませんでした。一般ユーザーが投稿したレシピ動画という、売る意図のない発信だったからこそ信じられたのです。
Z世代は物心ついたときからSNSの広告に囲まれて育った世代で、作為への感度が非常に高いことが知られています。研究員へのインタビューでも、同世代の等身大の投稿は企業の公式発信より何倍も参考にされている様子がうかがえます。
研究所の中でよく出てくる言葉があります。広告だと分かった瞬間に冷める。逆に言えば、広告に見えない熱量だけが、この世代の財布を動かします。
テレビCMが世帯に向けた放送だとすれば、TikTokの投稿は友人からの口コミに近い位置にあります。信頼の源泉が企業から個人へ移った。TikTok売れはその象徴といえます。
企業が再現しようとして失敗する理由
成功例が知られるほど、同じ現象を意図的に起こそうとする企業が増えました。ただ、うまくいかないケースが目立ちます。理由は3つ考えられます。
- 作為が透ける。複数のインフルエンサーに同じ商品を持たせて一斉に投稿させると、視聴者は企業案件だとすぐに見抜きます
- 起点が設計できない。地球グミもファイブミニも、火をつけたのはメーカーではなく一般の投稿者でした。どの動画が跳ねるかは事前に読めません
- 動画映えする瞬間がない。割れる、伸びる、音が鳴る、意外な使い方ができる。映像として面白い一瞬を持たない商品は、投稿を増やしても真似されません
企業にできるのは火をつけることではなく、燃えやすい薪を置いておくことだと私たちは考えています。動画にしたくなる要素を商品側に仕込み、火がついたら供給と在庫で応える。Z世代のSNSの使い分けを踏まえるなら、TikTokは点火装置であって、燃やし続ける炉ではありません。
TikTok売れの賞味期限|熱狂は驚くほど短い
あれほど品薄だった地球グミの棚は、いま静かです。トレンドの回転が速いTikTokでは、熱狂は数週間から数か月で次の話題に置き換わります。
一方で、ファイブミニのようにバズを入口として定番になっていく商品もあります。分かれ目は、話題が去った後に残る実用の価値があるかどうかです。
TikTok売れは宝くじというより健康診断に近いものです。商品がもともと持っていた魅力が動画という形式で検査され、あったものだけが増幅される。ゼロからは何も生まれません。
一度きりの祭りで終わらせるのか、ブランドの資産に変えるのか。本当に試されるのはバズの後です。若者研究所では、現役の学生研究員によるグループインタビューや定点調査で、Z世代のトレンドの兆しと購買の本音を企業のマーケティングにつなげています。若者リサーチのご依頼やお問い合わせはお気軽にどうぞ。
よくある質問
TikTok売れとは何ですか?
TikTokに投稿された動画をきっかけに、特定の商品が爆発的に売れる現象です。日経トレンディが選ぶ2021年ヒット商品ベスト30で1位に選ばれました。メーカーが仕掛けていないのに売上が急増するケースが多いことが特徴です。
TikTok売れの代表的な事例にはどんなものがありますか?
惑星の形をした地球グミは、食べる動画の流行で全国的な品薄になりました。筒井康隆の小説「残像に口紅を」は紹介動画をきっかけに11万5000部の増刷につながり、大塚製薬のファイブミニはレシピ動画の流行でコンビニの1日の販売数が2倍になりました。
企業がTikTok売れを狙っても失敗しやすいのはなぜですか?
広告らしさが伝わった瞬間に視聴者が冷めてしまうためです。過去の事例では一般ユーザーの自然な投稿が起点で、どの動画が拡散するかは事前に設計できません。動画映えする要素を商品側に備え、話題化したときに供給で応える体制づくりが現実的な打ち手です。


