TikTokマーケティングの始め方。Z世代に届く動画設計の基本

2021年、コンビニの棚で1本の古い飲み物が品薄になりました。1988年発売、大塚製薬の食物繊維ドリンク、ファイブミニです。火をつけたのはテレビCMでも店頭販促でもなく、TikTokに流れた数十秒の紹介動画でした。日経トレンディが同じ年のヒット商品1位に選んだのは、特定の商品ではなくTikTok売れという現象そのものです。発売から30年を超えた商品まで棚から連れ去るこの力は、受け手のZ世代にはどう見えているのか。そこから始めると、企業が設計すべきものの順序が変わります。

TikTok売れが起こる仕組み|フォロワーゼロでも届くおすすめフィード

TikTokの画面の中心は、フォローした相手の投稿ではなく、アプリが一人ひとりに合わせて差し出すおすすめフィードです。評価されるのはアカウントの規模ではなく動画そのもの。最後まで見られたか、コメントや保存がついたか。その積み重ねだけで露出が決まるため、開設したての企業アカウントの1本目が、ある夜100万人に届くことも起こりえます。
2020年に無名だった瑛人さんの楽曲、香水がTikTokでの投稿をきっかけにチャートを駆け上がり、紅白出場まで至ったのはその象徴です。TikTok売れという現象は、拡散の主導権がフォロワー数から動画の中身へ移ったことで生まれました。

Z世代は最初の1秒で広告臭を見抜く

ただし、届くことと受け入れられることは別の話です。おすすめフィードは親指のひと払いで次の動画に切り替わる場所で、Z世代は毎日そこで大量の動画をさばいています。冒頭に置かれた企業ロゴ、整いすぎた照明、台本を読み上げる口調。その気配を感じ取った瞬間に指が動きます。研究員たちのTikTokの使い方を横で見ていると、判定にかかる時間は1秒あるかないかです。
ここで見誤りたくないのは、彼らが広告そのものを憎んでいるわけではないことです。嫌われるのは、広告なのに広告ではないふりをする振る舞い。この線引きは嫌われる広告の分析とも重なります。

Z世代の目は広告を弾くフィルターではなく、作り手の誠実さを1秒で測るセンサー。研究所ではそう捉えています。

企業がやりがちな失敗|テレビCMの文法を持ち込む

研究員に企業アカウントの動画を見てもらうと、飛ばされる理由は驚くほど共通しています。多くは、テレビCMの文法をそのまま縦画面に持ち込んだことによるものです。

よくある失敗 画面で起きること 代わりの設計
テレビCMを転用する 冒頭がロゴと商品名になり、1秒目に飛ばされる 縦型で撮り直し、1秒目から本題に入る
映像の完成度を上げすぎる きれいすぎて広告として処理される スマホ撮影の質感と素の言葉を残す
流行の音源やダンスに乗るだけ 再生はされるが商品が記憶に残らない 商品が主役になる型を自前でつくる
フォロワー数だけで出演者を選ぶ 生活との接点が見えず他人事になる その商品を本当に使っている人に語らせる

ハッシュタグチャレンジ|ユニクロUTが見せた参加の設計

企業側から仕掛ける手法の代表がハッシュタグチャレンジです。ユニクロは2019年、お気に入りのUTを着て専用楽曲に合わせた動画を投稿してもらう#UTPlayYourWorldを、日本を含む5つの国と地域で開催しました。ユニクロの発表では投稿は18万件を超え、視聴数は約3.3億回。グランプリ受賞者はテレビCMや世界の店舗モニターに出演しています。
見るべきは規模より設計です。視聴者を出演者に変える仕掛けであること。そして凝った振り付けではなく、自分にもできると思える型を用意したこと。参加のハードルの低さが投稿を生み、その投稿がまた別の誰かのおすすめフィードへ流れ込んでいきました。

UGCへの波及と、越えてはいけない一線

ハッシュタグチャレンジの本当の成果物は、企業の動画ではなく、そこから生まれる生活者の投稿、つまりUGCです。友人の顔と声で語られた商品は、公式の言葉より深く刺さります。ファイブミニを品薄にしたのも、大塚製薬の発信ではなく無数の一般投稿でした。
ここで焦って投稿を報酬で量産させると、すべてが崩れます。2023年10月には景品表示法のステマ規制が施行され、広告であることを隠した投稿は法律の上でも許されなくなりました。Z世代はPR表記を頭ごなしには拒みません。見抜かれたときに失うのは、その企画ではなくブランドへの信頼のほうです。

TikTokマーケティングの主役は企業の動画ではなく、それを見た人の次の投稿。企業にできるのは台本を書くことではなく、舞台を整えることまでです。

TikTokマーケティングの始め方|観察してから小さく出す

では何から手をつけるか。順序はシンプルです。

  • まず観察する。自社の商品名やカテゴリー名で検索し、誰がどんな言葉で語っているかを集める
  • アカウントの人格を決める。会社としてではなく、画面の向こうの一人として話す口調を定める
  • 小さく出す。1本に予算をかけず、型を変えながら本数で検証する
  • コメント欄に立ち会う。質問に答え、生まれた投稿を拾い、許諾を得て紹介する
  • 保存数とコメントの中身、指名検索の動きを見て、次の企画に返す

広告枠を買う発想から、信頼が積み上がる場を育てる発想へ。Z世代マーケティングの全体設計の中でも、TikTokはその転換を最も速く試せる場所です。

若者研究所では、現役の学生研究員へのグループインタビューや定点調査を通じて、TikTokをはじめとするSNSのリアルな受け取られ方を企業のマーケティングと商品開発につないでいます。若者リサーチのご依頼お問い合わせはお気軽にどうぞ。

よくある質問

TikTok売れとはどんな現象ですか?

TikTokの動画をきっかけに商品が売れる現象で、日経トレンディの2021年ヒット商品ランキングで1位に選ばれました。発売から30年以上たった大塚製薬のファイブミニが品薄になった例のように、フォロワー数や広告費ではなく動画の中身だけで売上が動く点が特徴です。

企業のTikTok動画がZ世代に飛ばされてしまうのはなぜですか?

冒頭の企業ロゴや整いすぎた映像、台本を読み上げるような口調から、広告だと1秒ほどで判断されてしまうためです。Z世代は広告自体を嫌うのではなく、広告なのにそうではないふりをする発信を嫌います。1秒目から本題に入り、素の言葉で語る設計が有効です。

ハッシュタグチャレンジを成功させる鍵は何ですか?

参加のハードルを下げ、自分にもできると思える型を用意することです。ユニクロが2019年に実施したUTPlayYourWorldでは、好きなTシャツを着て専用楽曲で動画を撮るという簡単な型が用意され、18万件を超える投稿が集まりました。

この記事を書いた人

石崎健人
石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。

この記事の監修者

三上広葉
三上 広葉 | 若者の研究所 所長

2025年より株式会社バイデンハウス取締役。バイデンハウスの飲料・食料、美容・コスメ、SNSのリーダーシップ。Z世代、サブカルチャー、海外トレンドへの幅広い知見を強みにZ世代マーケティングの支援を得意とする。

この記事を書いた人

石崎 健人

外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。リサート所属モデレーター。